eぶらあぼ 2016.9月号
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58©篠原栄治海野幹雄 × J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲演奏会9/11(日)14:00 王子ホール問 新演03-3561-5012 http://www.shin-en.jp海野幹雄(チェロ)節目の年、あこがれのバッハ無伴奏全曲に臨みます!取材・文:東端哲也Interview 2008年の東京文化会館(小ホール)に始まり、翌年から王子ホールに場所を移して9月に開催を続けているソロ・リサイタルも9回目を迎え、今年は満を持してJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲の全曲演奏に挑む海野幹雄。 「若い時から折に触れずっと弾いてきた作品で、これまでのリサイタルでも最初の6回には毎年1つずつとりあげていました。また横浜市イギリス館でのサロンコンサートを筆頭に、ソロでは毎回殆どのプログラムにバッハの曲を組み込んできたし、40歳という節目の今年、未熟ながらも全曲演奏に臨むには良いタイミングに思えました」 一昨年のベートーヴェン、昨年のメンデルスゾーンに続き、近年はひとりの作曲家に焦点を当ててきた。 「特にベートーヴェンの音楽が彼の人生や人間性と深く結びついて分かち難いのに対して、バッハを弾くのに曲が生まれた背景などの情報はあまり必要ない気がします。バッハの音楽の本質はひとりの人間の個性に収まらない、もっと奥深く根源的なところにあり、そこで描かれる喜びも悲しみもスケールが大きく、時代や場所を超えた普遍的なものだと思うからです。やはり楽譜に残された音が全てであり、そこを読み解いて言葉のままに伝えるしかない。だから演奏もナチュラルであることが理想。会場のお客さんも構えずに、リラックスした雰囲気のもとでバッハの音楽が自然にきこえてくるようなリサイタルになれば嬉しいですね」 そのための工夫は例えばプログラムの曲順にも現れている。 「ある時期に集中して書かれているので6つを番号順に並べることに意味はないと思います。演奏時間を考えて、短い曲と長い曲とをセットにして小1時間になるのが望ましいのです。そこでまずは1番と6番、1度目の休憩を挟んで共に短調である2番と5番、そして2度目の休憩後に4番と3番という流れを考えました。締めを3番にしたのは知名度だけでなく、くすんだ音色の第4番(変ホ長調)に対して第3番がチェロにとって開放的で高揚感を掻き立てるハ長調であることが大きい。まとめて聴くことで、それぞれの前奏曲やアルマンド、舞曲などを比較する楽しみもあるはずです」 すでに来年(第10回)のテーマも「ハイドン~協奏曲の夕べ」と決まっているようだが、先ずは渾身のバッハ尽くしを楽しみにしたい。 「今はとにかく練習あるのみ。自分の直感や感性を信じて楽器と向き合っていると、小さな発見やひらめきは常にある。まだまだ当分、バッハを弾くことをやめられそうにありません」9/20(火)19:00東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター  03-5353-9999http://www.operacity.jp東京オペラシティ B→C 篠崎 孝(トランペット) 気品ある響きで刺激的なプログラムを堪能文:柴田克彦 「温かい、音楽的な音」を志向するトランペット奏者…。華麗なイメージの楽器ゆえに、そう聞くと思わず耳にしたくなる。9月の東京オペラシティの『B→C』に登場するのは、大阪フィルの首席奏者・篠崎孝。2008年、洗足学園音楽大学4年時に同ポストを射止め、入団後の12年に日本音楽コンクールで1位を獲得した、才能と向上心を併せ持つ名手だ。 金管奏者にとって当シリーズで肝となるのがバッハだが、彼はオーボエ・ダモーレ協奏曲を選択。「D管で演奏したら素敵だな」との思いを反映した新鮮な演奏に期待がかかる。現代作品では委嘱新作2曲が意欲の表れ。彼の師であり、効果抜群の曲を生み出すケンツビッチこと津堅直弘、1991年生まれの柳川瑞季の両作いずれも興味深い。「ワウワウミュートの高度な使用、タンギングだけの表現など、予想もつかない世界に迷い込む」マーク・アンドレの作品、ヴァイオリンとの高音競演が刺激的なイウェイゼンの三重奏曲など、他にも注目作が目白押し。気品ある音を、未知の魅力満載の演目と共に体感しよう!

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