eぶらあぼ 2016.9月号
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41日本フィル創立60周年記念ピエタリ・インキネン首席指揮者就任披露演奏会ドイツの深き森で、注目の新体制が始まる文:柴田克彦没後20年 武満 徹 オーケストラ・コンサート盟友ナッセンが自ら組んだ“タケミツ・プログラム”文:江藤光紀9/27(火)19:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp10/13(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 http://www.operacity.jp これほどスムーズで意味あるシェフの交代は滅多にない。創立60周年を迎えた日本フィルが、今秋から、欧米著名楽団での活躍も顕著なピエタリ・インキネンを首席指揮者に迎える。といっても彼は、2009年から同楽団の首席客演指揮者を務め、シベリウスやマーラーなど幾多の名演を残してきた。しかも同フィル演奏レベルの大幅向上の立役者たる前任のラザレフが、今後も年2回登場する。ならば、これまで培った特性を変えずに、さらなる新展開が期待できる。 インキネンは、楽節ごとの構築を明確に描きながら、恰幅のいい音楽を聴かせる。それゆえ日本フィルで今後独墺ものに重点を置くのもわかるし、特にハマるのはワーグナーであろう。実際彼は《ニーベルングの指環》全曲を何度も指揮し、同楽団でも13年9月定期の《ワルキューレ》第1幕で、ワーグナー・イヤーの公演中、屈指の高評価 武満徹没後20年。作品は世界中でますます演奏されているが、生前から交流をもったアーティストには引退・物故者も増えてきた。今回、武満が芸術監督を務めていた東京オペラシティで開かれるコンサートは、武満と深い絆でつながれた作曲家・指揮者のオリヴァー・ナッセンが企画した点で貴重だが、武満受容の現在を映している点でも興味深い。 まず選曲だが、武満が前衛として刺激的な作品を次々と放っていた60年代に焦点を当てる。「テクスチュアズ」(1964)は東京オリンピックの年に書かれ、オーケストラを微細に分割することで流動的な質感が生まれている。「環礁」(62)は大岡信のシュールレアリスティックな詩句に、音の感性が鋭敏に反応する。「地平線のドーリア」(66)は2分割された弦の“こだま”の中にドリア調がほのかに響く。アイディアをスコアに落とし込む手並みが見事だ。「グリーン」(67)はすっきりと美しい管弦楽法で後年の作風を予兆する。を得ている。 そこで就任披露演奏会には、ワーグナー《ジークフリート》と《神々の黄昏》の抜粋が選ばれた。歌手には、バイロイト音楽祭の常連でもある世界的ヘルデン・テノール、サイモン・オニールと、METをはじめ著名歌劇場で活躍するソプラノのリーゼ・リンドストロームを迎える盤石の態勢。中でも、前記《ワ 今回のもう一つの特徴はキャスティング。ナッセンは武満作品を多く初演したピアニスト、ピーター・ゼルキンだけではなく、若い世代も積極的に起用。日本語で書かれた「環礁」を歌うのは現代ものも得意とするイギリス人ソプラノ、クレア・ブースだ。この日最後に演奏される「夢の引用」(91)はドビュッシーから影響を受けた晩年の甘美なルキューレ》で圧倒的な歌声を聴かせたオニールにかかる期待は大きい。《指環》後半の2作は、ワーグナーの真髄が詰まった深き世界。インキネンの重厚な表現に、サウンドの幅と活力を増した日本フィルがどう応えるか? いやがおうにも興味は募る。新体制の門出を祝いながら、今後を示唆する本公演を、とくと堪能したい。トーンが聴かれるが、2台ピアノと管弦楽のためのこの作品を演奏するためにゼルキンが選んだピアニスト、台湾出身のジュリア・スーも国境・ジャンルを超えた活動で頭角を現しつつある若手。管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団が務める。故人を偲ぶだけではなく、その遺産を継承する未来志向のコンサートだ。リーゼ・リンドストローム ©Lisa Marie Mazzucco左より:武満 徹 ©Schott Music Co.Ltd.,Tokyo/オリヴァー・ナッセン ©Mark Allan BBC/ピーター・ゼルキンサイモン・オニール ©Lisa Kohlerピエタリ・インキネン ©吉田タカユキ

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