eぶらあぼ 2016.9月号
156/195
気分は明日必ず話したくなる?クラシック小噺capriccioカプリッチョ163コンサートやオペラでの「正しい」ドレスコード コンサートやオペラでの「正しい」装いとは、何だろうか。事情の分かっている日本ならともかく、ヨーロッパの劇場や音楽祭に行く時には、少々悩む問いである。欧州全体で統一基準があるわけではなく、国や場所によって違うので、事情はより複雑になる。 何が難しいのかというと、「どの程度フォーマルであるべきか」のレベルが規定しにくいこと。必ずしも着飾っていればいい、というわけではない。今日では、ザルツブルク等の大フェスティバルでない限り、正装をする機会は稀だ。その場合でも、礼服は義務ではなく、普通のスーツやワンピースでOKである。イブニング・ドレスやタキシードが求められる時は、チケットやウェブサイトにその旨が記載されている。セレブが集まり、切符も2000ユーロというミラノ・スカラ座のシーズン開幕公演なら、正装をして行っても様になるが、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでさえ、(昼間ということもあり)ちょっと気張ったくらいのフォーマルで平気。逆に、通常のオペラやコンサート公演で正礼装すると、場違いになり浮いてしまう。 場所によっても、装いのレベルには差がある。例えばベルリンでは、オペラにジーンズとセーターで来ても、一向にとがめられることはない。町自体がカジュアルでざっくばらんとしているので、若者が普段着で来るのもいいじゃないか、という空気がある。逆にミュンヘンのオペラでは、多少はまともな恰好をしていないと、隣のオバサマに白眼視される可能性がある。ミュンヘンは、ドイツ一裕福な町で、バイエルン国立歌劇場は、ヨーロッパ有数の豪華な劇場。Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』、『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。近年は、音楽関係のコーディネーター、パブリシストとしても活動。観客も金ピカなので、ある程度の恰好をして行かないと、恥ずかしい思いをするだろう。スカラ座では、「男性は(通常公演でも)ネクタイを着用してください」とチケットに書いてあったことがあったが、これは今でもそうなのだろうか。少なくとも言えるのは、華やかなオペラでは、コンサートの場合よりもずっと着飾る、ということである。 それでは、実際には何を着て行くべきなのか。男性の場合、やはりスーツが無難である。昔は「夜に茶や明るい色のスーツ・靴はご法度」という暗黙の了解があったが、今日ではまったく問題ない。ヨーロッパでは夏は陽が長いし、麻などのさっぱりとした素材は、むしろ涼し気で良いと思う。女性はワンピース。音楽祭、オペラの初日等の特別な場ならば、着物という選択肢もある。これは目立つし、日本人として綺麗に見えるので、着飾る場合はお勧めだ。筆者自身は、普通はスーツやジャケットを着るが、ネクタイをして行くことはほとんどない。つまり「フォーマルではないが、エレガントに見える格好」をして行く。特別な時間を意識しつつ、同時にリラックスして、という立ち位置だが、そのバランスがつかめたら、もう着るもので迷うことはないだろう。城所孝吉 No.2連載
元のページ