eぶらあぼ 2016.8月号
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27東京では初の古典的オペラに挑む若きマエストロ取材・文:柴田克彦 写真:藤本史昭 20代から類い稀な活躍を続ける川瀬賢太郎は、今年11月、日生劇場でモーツァルトの《後宮からの逃走》を指揮する。彼は、2012年に細川俊夫の《班女》広島公演でオペラデビュー後、細川の《大鴉》をアムステルダム、東京、広島で、細川の《リアの物語》とモーツァルトの《フィガロの結婚》を広島で指揮。今回は「通算5本目にして、東京では初の古典的なオペラの指揮」となる。また日生劇場の《後宮》は04年以来12年ぶりだが、前回の指揮は彼の師匠の広上淳一。大学2年だった川瀬は「パート譜の事前チェックを手伝った」というから縁もある。 「私はオペラが大好きですし、小学6年の鑑賞教室以来、観客として何度も来ている日生劇場で振れる喜びは大きいですね。その意味では、サントリーホールでの初指揮と同じような感覚があります。また来年3月に神奈川県民ホールで振る《魔笛》などを含めて、2〜3年の間にモーツァルトの主要オペラを続けて指揮できるのも、非常にありがたいこと。特に《後宮》は、4大オペラよりも上演機会が少ないので、30代前半に経験できるのは、今後のキャリアにとっても重要だと思います」 《後宮》は親しみやすさが魅力だ。 「物語もわかりやすく、音楽もストレートに内容を伝えています。それにオーケストラが歌のガイド役を果たしていますので、難しく考えずに入っていけます」 演出は、最近活躍が顕著な田尾下哲。 「先だって神奈川フィルがピットに入った《金閣寺》が、とてつもなく綺麗で素晴らしかった。今回は美術なども含めて同じスタッフなので、とても楽しみです。それに田尾下さんの考えが私と違えば、プロダクションに新たなボキャブラリーが加わっていく。そこもオペラの現場の面白さですね」 歌手陣にも俊英が揃う。 「《後宮》は、後のモーツァルトのオペラに比べてアリアが長く、技巧的な曲が多い。ブロンデもコンスタンツェと同様に超高音から低音まで求められるなど音域も広いですよね。だから歌手は大変です。しかし今回は、素晴らしい方々に出演していただけることになりました。中でもコンスタンツェ役の佐藤優子さんとブロンデ役の鈴木玲奈さんは、東京音大の後輩にあたり、厳しいプロの現場で再会できるのは嬉しいことです」 管弦楽が読響であるのも心強い。 「23歳の時の読響デビューがあったからこそ今の私があると言っても過言ではありません。以来何度も呼んでいただいていますが、初めてオペラをご一緒するので緊張もします。ビッグ・オーケストラですし、04年の《後宮》を含め、日生劇場のオペラでも中心的な存在でもある楽団ですので、胸を借りるつもりで臨みたいと思います」 今回は、歌はドイツ語、台詞は日本語で上演される。 「物語の内容がより伝わりやすくなると考え、そうなりました。原語のアリアに日本語の台詞がどう絡むかによって全体像が変わってきますが、ミュージカルの脚本も手がけている田尾下さんは、言葉に厳しい方ですし、『まずは音楽ありき』とおっしゃっていますので、テンポがよく、音楽と台詞が生かし合う舞台になるでしょう」 作品としての見どころは多々ある。 「モーツァルトのオペラは、オーケストラ、特に序曲が全てを物語るケースが多い。《後宮》も、打楽器のキャラクターをはじめ、序曲が全体の方向性に繋がるので重要です。歌の中では、第1幕のコンスタンツェのアリア〈ああ、私は恋をしていました〉。この女性の強さには憧れますし、彼女に惚れてしまいますね。あとは映画『アマデウス』にも出てくるフィナーレ。シンプルだけどいい曲です。全体をみると、主役級が全員報われる稀なオペラであり、一生懸命にやれば自然に笑いが出る作品。長さもちょうど良く、初心者の方にも楽しんでもらえると思います。さらに、共感できるキャラクターを見つけると、同じ作品でも感触が違ってきますので、3公演全部観てもいいのではないでしょうか」 来年5月には八王子で《アイーダ》を振る予定もあり、「《ばらの騎士》をぜひやりたい。シンフォニーとオペラに取り組むことで互いの理解が深まれば」と意欲満々の若きマエストロ。彼をはじめ気鋭たちが織りなす今回の《後宮》には、大いに期待したい。Prole1984年東京生まれ。2007年東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲指揮専攻(指揮)を卒業。指揮を広上淳一らに師事。06年東京国際音楽コンクール<指揮>において1位なしの2位(最高位)に入賞。近年、オーケストラ公演のみならずオペラでも注目を集める若き俊英。神奈川フィル常任指揮者、名古屋フィル指揮者。八王子ユース弦楽アンサンブル音楽監督。三重県いなべ市親善大使。「渡邉曉雄音楽基金」音楽賞、第64回神奈川文化賞未来賞を受賞。第14回齋藤秀雄メモリアル基金賞、第26回出光音楽賞を受賞。

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