eぶらあぼ 2016.8月号
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第22回 「ご挨拶と、品格と、伝説のダンス公演とわたくし」 この連載は先月号まで本誌のダンス専門ページ「+Danza inside」に掲載されていたが、今月から「クラシック音楽情報誌 ぶらあぼ」にお邪魔させていただくことになった。どおりで周りのページには舞台写真がなく、顔写真の皆様が多い気がするな…。 「作家・ヤサぐれ舞踊評論家」と称しているオレが、コンテンポラリー・ダンス等のことを書くこの連載。気品とエレガンスを基調としているものの、まあやんごとない皆様の中に放り込まれた野犬のようなものと思っていただければ十分である。「文句があったらかかってこい!」とマイルドに喧嘩を売る日々が綴られるであろうからね。 さて7月には愛知で歴史的なダンス公演があった。日本のコンテンポラリー・ダンス黎明期の1990年代からずっと時代を牽引してきたダンスカンパニー「H・アール・カオス」が6年ぶりに新作公演を行ったのだ。大島早紀子の演出・振付で、メインダンサーの白河直子のソロ作品『エタニティ』である。 その実現には『今晩は荒れ模様』(2015)というダンス公演が契機になっていると思う。この作品は舞踏の大御所・笠井叡が6人の女性ダンサーに振り付けたもの。舞踊批評家協会が賞を出したが、その授賞理由が無礼千万の文章で、激怒した笠井が受賞辞退と抗議文をネットに公開した件でも耳目を集めた。その後の後追い記事(2016年6月6日 毎日新聞東京夕刊)で同協会は「あれは草稿だった」という失笑ものの言い訳をし、もはや協会の存在意義すら問われている始末だ。 ただ当該の公演は本当に素晴らしかった。ここで踊られた白河直子のソロダンスが、若い観客、とくにダンサー達の度胆を抜いたのである。若い彼らは「ソリスト級のダンサー達を贅沢に使った激烈な群舞」「ワイヤーを使った浮遊するような動き」「ニューヨーク・タイムズ紙が年間ベストダンスに選び『NYでこそ活動するべきだ』と激賞した」等々のPrifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお伝説を知るのみ。さらにはそれすら知らない若い世代までもが、『今晩は〜』でいきなり白河の超絶ダンスを見てしまい、「だだだ誰なんですかあの人!?」というどよめきが、ダンス界に広がったのである。むろん他の出演者もすごかったのだが、白河は長いブランクが破壊力を倍増させていた。 そして今回6年ぶりの新作を実現してくれたのが、愛知県芸術劇場である。東京のカンパニーがなぜ愛知で? と思うかもしれないが、ここの唐津絵理というディレクターが傑物なのだ。H・アール・カオスとの関連も深く、過去に彼女たちの代表作『春の祭典』をフルオーケストラで、『カルミナ・ブラーナ』をフルオーケストラとオペラ歌手と合唱団で、さらにダンスオペラ『神曲』など、数々の「愛知でしか観られない公演」を実現してきた実績がある。 そして今回の白河のソロは、まさに至高のダンスだった。超絶技巧が突き抜けた果てに生み出す豊かな情緒性、そして更に大きな世界に接続されていく恍惚と畏怖。震えるような思いでダンスの凄みを堪能したのだった。 …と同時に、ほんの10年前には「これほどの力のあるカンパニーの作品は、将来いつでも観られる」と思っていた自分の浅慮を恥じた。優れたアーティストと同時代にいられる僥倖は、明日消え去るかもしれないのだ。だから今日、劇場へ行ってくれ! いやさ、オレの筆の力で、劇場へと駆り立ててやる! これは、そういう連載なんである。じゃ、また来月!……誰もオレを知らぬ161

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