eぶらあぼ 2016.8月号
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148SACDCDCDCDアコースティコフィリア/モレキュル・プレーン(Yuki Ohtsuka)陽かぎろひ炎の樹/大井剛史&佼成ウインドケンペ&バンベルク響 オイロディスク・レコーディングスロマンチック・タイム/中野真帆子Jaguarundi/Bringer/Stain/Vixen/Ghost Dubbing/Maeve(reprise)/Arcane/Woundwort/Gushモレキュル・プレーン(Yuki Ohtsuka)一柳 慧:吹奏楽のためのナグスヘッドの追憶/中橋愛生:科戸の鵲巣、陽炎の樹/高 昌帥:Mindscape for Wind Orchestra/長生 淳:Paganini Lost in Wind/酒井 格:I love the 207/真島俊夫:レント・ラメントーソ/西村 朗:秘儀Ⅲ大井剛史(指揮)東京佼成ウインドオーケストラブラームス:交響曲第2番、ハイドンの主題による変奏曲/スメタナ:交響詩「ボヘミアの森と草原より」/シューベルト:交響曲第8(7)番「未完成」/モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク/ビゼー「アルルの女」組曲第1番・第2番 他ルドルフ・ケンペ(指揮)バンベルク交響楽団メンデルスゾーン:幻想曲「スコットランド風ソナタ」/ショパン:3つの夜想曲 op.9、ノクターン第20番(遺作)、3つのマズルカ op.59/リスト:愛の夢、ジュネーブの鐘、エステ荘の噴水、タランテラ中野真帆子(ピアノ)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9002 ¥2800+税収録:2014~2016、東京芸術劇場(ライヴ)ポニーキャニオンPCCL-50013 ¥2500+税日本コロムビア/TOWER RECORDSTWSA1018-9(2枚組) ¥4000+税KING INTERNATIONAL INC.KKC-043 ¥オープン価格「作りこまれたホワイトノイズ」という感じで始まるが、ノイズの粒の一つひとつがスピーカーからミストのように放出されて全身を包み、聴き手はいつのまにか時空間を超越した不思議な世界に身を委ねている。Ohtsukaのいう“モレキュル・プレーン”とは、このような無重力のゼロ状態をイメージしているのではないか。浮遊状態は、刻々と相貌を変える「Vixen」、大量のミストを滝のように放出する「Arcane」など、それぞれに異なるアイディアの重力圏へたぐり寄せられるが、最後は意表を突き岩清水や雨だれの音、野鳥のさえずりなどが聴こえてきて(Gush)、異界への小旅行が現実世界との接点に戻ったことを知る。(江藤光紀)2014年4月〜16年2月の大井剛史指揮による東京佼成ウインドオーケストラの定期演奏会で披露された邦人作品集。03年から16年に至る作品が作曲順に並べられ、21世紀の系統的なアンソロジーにもなっている。こうした楽曲に積極的に取り組む、同楽団の正指揮者・大井の矜持を示す内容であり、複数公演のライヴ収録にもかかわらず、首尾一貫したトーンを感じさせる。それは、最高度の技量を生かした密度の濃い表現と、緊迫感を湛えたある種の“凄み”だ。日本作曲界の重要な側面を表す1枚として、現代音楽に関心のある一般ファンにも聴いて欲しい。(柴田克彦)ケンペとバンベルク響のオイロディスク原盤(1963年録音)がSACD化で生々しく甦った。シューベルト「未完成」は峻烈といっていいような厳しい造形で聴きごたえがある。fzやffが打ち込むような激しさと熱さで表現される。展開部はさながら修羅場のようだ。ブラームスの交響曲第2番はこれより穏やかだが、このオーケストラ特有の粘着力のある響きが美しい。リズムの切れ味も鮮やか。緩徐楽章の歌の繊細な表情づけもとてもきれいだ。スメタナ「ボヘミアの森と草原より」の変化に富んだ楽想の的確な振り分けと高揚の作り方は魅力的であり、深い感動を覚える。(横原千史)ウィーン国立音大からパリ・エコールノルマル音楽院に学び、さらにカナダで研鑽を積み、欧州各地のコンクールで実績を重ねて、帰国後は演奏活動の傍ら、後進の指導や執筆活動にも力を注ぐ中野。当盤には、互いに知己の関係にあり、ロマン派のピアニズムを体現する存在であるメンデルスゾーン、ショパン、リストによる“王道”と言って良い傑作ばかりを収録。持ち味の明瞭な発音とフレーズの彩り豊かな収め方を活かし、流れの良い音楽創りを実現する一方、アルバム全篇を通して、3人の作曲家に共通する“時代の空気感”を浮き彫りに。確固たる構築感があってこその、匠の技だ。(笹田和人)

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