eぶらあぼ 2016.7月号
37/199

34Music Program TOKYO プラチナ・シリーズ2浜田理恵 ~言葉は歌い、音楽は語る~9/22(木・祝)16:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 http://www.t-bunka.jp浜田理恵(ソプラノ)“ことば”と音楽でつづるルイス・キャロルの世界取材・文:宮本 明Interview 東京文化会館『プラチナ・シリーズ』に登場するソプラノの浜田理恵。注目は三ツ石潤司の新作、音楽遊戯「アリスの国の不思議」だ。もちろんルイス・キャロル『不思議の国のアリス』による音楽作品だが、あくまで“オペラ”ではなく、“音楽遊戯”という。 「オペラのような、です(笑)。舞台や演出も大掛かりではありませんので、19世紀的ないわゆるオペラをイメージしてほしくないのです。でもそんなことにこだわっているわけではありません。とにかく楽しんで聴いていただければ」 『不思議の国のアリス』はメルヘンとして捉えられがちだが、言葉遊びを多用し、古い教訓歌のパロディを織り交ぜながら、論理のはき違いによる不条理を主題とする、19世紀の作品ながら新しい文学だった。今回の新作が過去のさまざまな時代・スタイルの音楽作品のパロディを中心に組み立てられているのは、その側面を音楽に応用した形と言える。 登場する歌い手はソプラノとバリトンの2人。原作のいくつかのエピソードが英語で歌われ、それを日本語の語りで繋いでゆく。 「元の作品のスタイルをきちんと歌えてこそパロディ。それができないと、ただ滑稽なだけです。共演するバリトンの晴雅彦さんは根が真面目なうえに面白いことができる人なので、その点も信頼できます。私はほぼアリス役ですが、彼はチェシャ猫や公爵夫人など、いろんな役を演じるので大変なのです」 浜田と三ツ石の間で新作の構想が具体的になったのは1年半ほど前。遠慮なく意見をぶつけ合いながら作り上げてきた。 「演奏家が自分から新しいものを創造する機会はなかなかありません。それで一生終わっていいのかと悩んでいた時、三ツ石さんと意気投合したのです。彼は作曲科出身ですが、いわゆる現代音楽のあり方に納得できず、作曲家としての自分を主張してこなかった。現代音楽は、聴衆との共通項を無視しているようなところがありますよね。では、自分たちでお客さまとの接点を意識しつつ、何か新しいものを創ろうと決めたのです。ですから、実は演じる側は結構大変なのですが、聴いて難解なものにはなりません。公演後にはお客様がメロディを口ずさみながら帰れるぐらいの作品になればいいですね」 プログラム前半にはプーランク、サティの歌曲。フランス音楽を得意とする浜田らしいが、そこにはプーランク「ハートの女王」など、『アリス』と世界観を共有するような曲も並ぶ。「前菜というか、予告編です(笑)」。こういう“伏線”は素敵だ。7/21(木)19:00 紀尾井ホール問 メイ・コーポレーション03-3584-1951http://www.saegusa-s.co.jp仲道郁代、横山幸雄 モーツァルト ピアノ協奏曲とソナタの夕べ贅沢にして貴重な、名ピアニストの競演文:柴田克彦横山幸雄©ミューズエンターテインメント この公演は、仲道郁代、横山幸雄、ピアノ、モーツァルトの各ファンはもとより、万人が興味津々だろう。何しろ日本を代表する人気ピアニスト2人が、共にモーツァルトの「ソナタ K.310」を弾き、「4手のためのソナタ K.381」で連弾を行い、仲道が協奏曲第20番、横山が協奏曲第24番を弾き振りするのだから、垂涎の企画というほかない。管弦楽はシアター オーケストラ トーキョー。 パリで直面した母の死への哀しみを映す(とされる)イ短調の人気作「K.310」で、名手2人の表現を聴き比べるのは実にエキサイティング。これは昨年7月、軽井沢で2人が行った日本モーツァルト協会創立60周年記念『ピアノ・ソナタ全曲演奏会』で実現した試みだが、今回遂に東京で体験できる。彼らには珍しい協奏曲の弾き振りもむろん必見。しかもモーツァルトにとって特別な短調の2曲(協奏曲では両曲のみ)を続けて聴けるのが嬉しい。さらには、短調尽くしの深みの中で、共演姿も楽しみな4手の愛らしいソナタが一服の清涼剤となる。紀尾井ホールでの開催も贅沢だし、全800席ゆえに早めに手を打ちたい。仲道郁代 ©Kiyotaka Saito

元のページ 

page 37

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です