eぶらあぼ 2016.7月号
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22矢部達哉Tatsuya Yabe/ヴァイオリン開館15周年記念公演で、練達の名手が大活躍!取材・文:奥田佳道 写真:藤本史昭 東京・勝どき、晴海トリトンスクエアに建つ第一生命ホールが開館15周年を寿ぐ。特に銘打ってはいないが、祝祭の主役・主軸はこの人、ヴァイオリニストの矢部達哉。東京都交響楽団並びにサイトウ・キネン・オーケストラのキーパーソン、上野学園大学のプロフェッサーなどとご紹介するまでもない。オーケストラ、アンサンブル、ソロの領域を、精妙な音色で行き来する練達の名手である。 ファン憧れのステージを日づけ順に記せば、9月に『小山実稚恵とアルティ弦楽四重奏団』、10月に『トリトン晴れた海のオーケストラ』、そして11月に『15周年記念ガラ・コンサート』となる。すべて日曜の午後2時開演。 いつだって頼もしい矢部だが、音楽家として悩んだ時期もあった。 「ずっと頭と身体がバラバラだったんです。人があまりいない時間の美術館で絵を色々な角度から見て『色って、色の調和ってなんだろう、音楽ってどこへ向かっていくんだろう』と考えていました。自分のことを見つめ直す時期に入っていたんですね」 そんな状態が今年の春頃に変わったという。 「何かがぱっと閃いた感じ。ヴァイオリンを弾くのが、また楽しくなりました。きっかけになったコンサートがあります。春に都響で『ドン・キホーテ』と『メタモルフォーゼン』を演奏したでしょう(筆者注:前者は3月で小泉和裕指揮、後者は4月でフランソワ=グザヴィエ・ロト指揮)。大好きなR.シュトラウスを弾いて、自分をもう一度試そうと思いました。指揮者にも恵まれ、すごく気持ちがよかった。ソロを弾いた時、それまで抱えていた悩みが不思議なことに消えていたのです。良い状態で秋のステージを迎えられそうです」 9月はまずクァルテット。 「アルティ弦楽四重奏団を、もっと知っていただきたいという気持ちがあります。東京ではご無沙汰でしょう。久しぶりのステージで、しかもゲストがいるんです。僕たちはずっとベートーヴェンの弦楽四重奏曲をやってきたので、誰かと共演するということがあまりなかったのです。クラリネットのポール・メイエさんと共演したことはありますが、アルティは“クァルテット一筋”なところがあったわけです。それが今度は何と小山実稚恵さんとピアノ・クインテットを2曲、ドヴォルザークとブラームスです。オーケストラで何度も共演している小山さんですが、アルティでは初共演です」 10月は、昨年6月にモーツァルトの調べとともに出帆した「トリトン晴れた海のオーケストラ」の第2回演奏会。俊英、才媛が勢揃いした。 「世代によって“見える風景”が違うでしょう。音楽もそうですよね。僕はコンサートマスターとして弾きますが、下の世代からの刺激も欲しいんです。だからアイディアがあったら言って、と。オーケストラのメンバーは、首席には音楽的な価値観を共有できる人を選び、若い人はその首席の方にお任せしたり、僕が別のところで一緒にやって、巧いなあと思った人たちです。ホール主催セミナーの修了生(トリトン・アーツ・ネットワークと第一生命ホール主催のアドヴェントセミナー、室内楽アウトリーチセミナー)たちも加わります。若手世代には、信じられないぐらいハーモニーの感覚に優れた人もいるんですよ。勘も鋭いです。リハーサルで弾いただけで完璧に合ってしまうこともありますが、ただ合わせた音ではなく、演奏家の顔が見える音、そうですね、いつもより“上の景色”を見てみたいと思っています。今年はポール・メイエさんともご一緒出来ることになりました」 昨年に続くアマデウス尽くし。「ハフナー」、クラリネット協奏曲、「ジュピター」に胸ときめかない聴き手はいないだろう。 11月は豪華ガラ・コンサートの一翼を担う。こちらもオール・モーツァルト・プログラムだ。 「僕は川本嘉子さんとデュオ、それと『アダージョとロンド』(K.617)なんですが、ウェールズ弦楽四重奏団は客席で聴きたいなあ。東混(ゾリステン)で『アヴェ・ヴェルム・コルプス』もあるんですよね」 秋は第一生命ホール“でも”矢部達哉を。晴れの場には、この人が必要だ。

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