eぶらあぼ 2016.7月号
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21今回のマリインスキー・オペラは必見です!取材・文:柴田克彦 写真:大塚正昭 現代きってのカリスマ指揮者、ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー・オペラが、今秋5年ぶりとなる待望の日本公演を行う。1988年、ゲルギエフが35歳で芸術監督に就任して以来、この名門歌劇場の躍進ぶりは、とどまることを知らない。 「マリインスキー劇場は今なお発展を続けています。2013年に出来た新館(マリインスキーⅡ)を含めて、オペラ・バレエの専用劇場が2つとコンサートホールがあり、海外公演も含めると年間1,000以上の公演を行っています。そのうち子供を対象とした演目も100公演以上。子供向け公演の内容は、劇場の質と発展に直結していると思っています。また最近、ウラジオストクの劇場がマリインスキーの傘下になりました。ここをアジアとロシアの文化交流の拠点にしていきたいと考えています」 今回の日本公演の演目は、チャイコフスキーの《エフゲニー・オネーギン》とヴェルディの《ドン・カルロ》(イタリア語 5幕版)。ロシア・オペラの大看板とイタリア・オペラの中でも重厚な傑作が並び、しかも前者は14年、後者は12年プレミエの新演出だけに、期待が膨らむ。 「日本公演は私にとっていつも特別です。ここには熱心に聴いて、反応してくださる聴衆がいます。従って、最近の新制作プロダクションの中でも特に素晴らしいものを選びました。2演目は共に2人の偉大な作曲家の最も充実した時期に書かれた作品。そうした意味で両演目は“リッチ”であると言えます。またプロダクションは2つともオーソドックスです。私は前衛的な演出は好みません。そして両演目に共通する見どころは衣装の美しさ。それは溜息が出るほどの美しさです」 《エフゲニー・オネーギン》は、チャイコフスキーの理想を実現した舞台となる。 「このオペラは“若さ”が特徴です。初演の際、チャイコフスキーは音楽院の学生の起用を希望しました。原作者のプーシキンもチャイコフスキーも30代、またオペラの主人公も皆若い設定でした。多くの劇場で行われているような、ベテランの歌手たちが主役を演じる上演では、この作品の真の魅力を伝えることは出来ません。今回は、マリインスキー・アカデミー出身者を中心にした若い歌手たちが大活躍します。私はこれまでに多くの若い歌手を育ててきました。今回も飛び切りの才能を皆様にご紹介いたします」 《ドン・カルロ》は、逆に歌手の底力や存在感が重要なオペラだ。 「こちらは何と言っても、世界的なバス歌手のフルラネットが出演してくれます。彼とはこれまでも数多く共演してきましたが、本当に特別な歌手です。マリインスキー劇場ではマスネの《ドン・キショット》を彼のために制作しました。確かに当劇場から多くの世界的な歌手が育っています。しかし同時に、世界のスターが集う、国際的な劇場でもあるのです」 フルラネットといえば、カラヤンとの共演以来、今回歌うフィリッポ2世役が代名詞。これだけでも観る価値大だが、本作には、11年のMET日本公演で急遽カルロ役を歌って成功を収めたヨンフン・リーをはじめ、国際派の名歌手たちが勢揃いしている。 こうした歌手陣にはゲルギエフも太鼓判を押す。 「マルコフ(オネーギン/《ドン・カルロ》のロドリーゴ)は、METやザルツブルク音楽祭で主役を歌うスターであり、ペトレンコ(グレーミン侯爵/宗教裁判長)は、世界中でひっぱりだこです。《オネーギン》に出演するブルデンコ(オネーギン)、アフメドフ(レンスキー)、バヤンキナ(タチヤーナ)、ツァンガ(グレーミン侯爵)なども皆、才能に溢れています。さらにマトーチュキナ(オルガ)は昨年のチャイコフスキー・コンクールで優勝した逸材。彼女は、素晴らしい声をもつだけでなく、インテリジェンスに富んでいます。今回は《ドン・カルロ》にもエボリ公女役で出演しますが、彼女であれば見事なエボリを歌えるでしょう」 今回の公演が必見であることは、ゲルギエフの言葉が証明している。「私はこれまで、自分の公演に『ぜひ、いらしてください』と言ったことは一度もありません。しかし今回ばかりは『見逃さないで欲しい』と心から申し上げたいと思います」

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