eぶらあぼ 2016.7月号
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第21回 「観る人も、創る人も、書く人も!」 近年、書くだけではなく、レクチャーの依頼も増えた。 劇場関係者やダンス関係者への非公開な物から、各大学などの教育機関、そして日本各地で一般のダンスファンが企画してくれるものなど多数。公演を観るのみならず「もっと知りたい!」という人が増えたのは、ダンスを支える構造全体が豊かに強くなってきている証拠で、とてもうれしいことである。 海外の科学の世界には「サイエンス・コミュニケーター」という人々がいて、難解になりがちな科学のことを、親しみやすい実験などを交えてよりわかりやすく解説したりする。そもそもオレの評論は一人でも多くの観客を劇場に連れて行くためのもの。いま使っている「ヤサぐれ舞踊評論家」も気に入ってはいるんだが、「ダンス・コミュニケーター」と名乗ってみるか。 こういう名称で感心したのは、マイケル・ジャクソンである。ミュージシャンと同姓同名ながら世界的な酒の評論家だ。彼の肩書きは「ビア・ハンター」「ウィスキー・チェイサー」だった。前者はアカデミー映画『ディア・ハンター』のもじり。後者は「チェイサー」に「追跡者」と「ウィスキーと一緒に飲む水」という二つの意味があることをかけているのだ。誰かオレにもカッチョいい「二つ名」を頼むよ。 酒といえば、オレが呑みながらダンスの話をする「ダンス酔話会」というものもある。そもそもは「レクチャー後の打ち上げ話が面白い。だったらはじめから呑んじゃえばいいじゃん!」という意見と、ただただ長時間呑んでいたいオレの目論見が完全に一致した講座である。いまでは日本各地のダンスファンが企画して、それぞれ独自性を発揮している。6月29日には、お茶処・静岡で「緑茶酔話会:おかわり」が行われるよ。日本茶インストラクター監修でノンアルPrifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかおコールからカクテルまで、様々な「お茶的な何か」が振る舞われるらしい!「おかわり」とあるのは、好評に付き2度目の開催だからである。 むろんシラフでもやっている。6月には『踊る。秋田』フェスで、秋田出身にして日本のダンスの変革者、石井漠と土方巽について語った。モダンダンスの祖と舞踏の祖をひとつながりで語るのは、このフェスならではである。さらに5月と6月は、横浜のバンカートスクールで、8回連続集中ダンス講義を行っている。講座開始後に「途中からでも受けたい!」という熱意のある方が続々参加中だ。参加者は観る専門の人からダンサーまで多彩。じっくり進められるので頻繁に質問が飛び、オレの中の博物学的な引き出しが続々開くよ。 この連続講座で、「ダンス教育」についてオレの考えがちょっと変わってきた。クリエイションの才能は教えられるものでもないしなーと斜めから見ていたのだ。しかし才能のあるヤツが歴史や理論を学ぶことで、創作活動がより深く地に足のついたものになり、長く続ける糧となるかもしれない。 才能を創り出すことはできなくても、才能がさらに大きく花開くために必要な根の養分にはなれるだろう。この連載でも、ガンガンそういうことを書いていくぜ! と思ったら、なにやらDanzaより重大発表がある模様。 この連載の運命やいかに!?248

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