eぶらあぼ 2016.6月号
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58飯守泰次郎 ©武藤 章秋山和慶(指揮) 東京都交響楽団名匠の職人技が光る好プログラム文:江藤光紀飯守泰次郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団「第9番」でツィクルスの掉尾を飾る文:飯尾洋一第808回 定期演奏会 Aシリーズ 5/30(月)19:00 東京文化会館問 都響ガイド03-3822-0727 http://www.tmso.or.jp第299回 定期演奏会7/5(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス  03-5624-4002 http://www.cityphil.jp 昨年、指揮者生活50周年を迎えた秋山和慶が都響の指揮台に立ち、独墺圏からお気に入りのプログラムを披露する。 ヒンデミット「弦楽と金管のための協奏音楽」は、ボストン響創立50周年を記念して作曲された。木管や打楽器を欠いているため色彩感が弱まり、絶対音楽として厳しく構築された音楽には職人芸が光る。秋山はこのところヒンデミット作品を多く取り上げているが、最近一段とレベルアップした都響を操って曲のダイナミックな魅力を引き出してくれるはずだ。 続いてエリック・ル・サージュをソロに迎え、モーツァルト「ピアノ協奏曲第24番」。ル・サージュといえばソロ活動はもちろんのこと、超一流管楽器奏者からなるレ・ヴァン・フランセのメンバーを務めるなど室内楽でも活躍しており、共演者の呼吸を読みながらアンサンブルを作る手腕には定評がある。モーツァルトでは持ち前の美音を軸に、典雅な演奏が期待できよう。 飯守泰次郎&東京シティ・フィルによるブルックナー交響曲ツィクルスが、いよいよフィナーレを迎える。2012年から交響曲第4番「ロマンティック」、第5番、第7番、第8番と毎年1曲ずつが演奏されてきたこのツィクルスだが、最終回としていよいよ交響曲第9番が演奏されることになる。ツィクルスの掉尾を飾るにふさわしく、風格の漂う円熟味のあふれたブルックナーを披露してくれるのではないだろうか。 ブルックナーの交響曲第9番といえば、作曲者最後の交響曲であり、未完の交響曲。第4楽章は完成されていない。近年は補筆完成版もまれに演奏されるものの市民権を獲得したとはいえず、この演奏会でも通例通り、第3楽章で曲を終える。静かに消えゆくような幕切れは、そこまでで偉大な作品を味わい尽くしたという充足感を残し、その先の音楽を想像させない。その意 後半はR.シュトラウス《ばらの騎士》組曲。若い男女の恋愛を没落貴族の哀愁を絡めつつ描いたこのオペラは、ゴージャスに彩られた愛の交歓からコミカルなワルツ、刹那に訪れる内省など、人生の喜怒哀楽を魔法のような筆致でたどっていく。今回演奏される組曲は、20世紀屈指の名オペラから聴き味ではシューベルトの「未完成」と同じく、完成された未完の作という矛盾した存在といえるだろうか。 ブルックナーは第3楽章までを書いた時点で、もし曲が未完に終わった場合は、第4楽章に代えて自作の「テ・デウム」を演奏するように求めている。この日はその「テ・デウム」が前半に演奏される。東京シティ・フィル・コーアと、ソプラノの安井陽子やテノールの福井敬をはじめ、日本を代表する独唱者陣がそろう。 飯守&東京シティ・フィルのコンビによるブルックナーの集大成ともいうべき記念碑的な名演を期待したい。どころを選りすぐったもので、オペラを聴く習慣のない方にも入門編としてお勧めできる。 秋山は地面に根を張るような揺るぎのないテンポで、精度の高いアンサンブルを組み立てる指揮者だ。太い幹から伸びる音楽の豊かな枝葉と実りを楽しみたい。秋山和慶エリック・ル・サージュ ©Jean-Baptiste Millot

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