eぶらあぼ 2016.6月号
59/211

56©武藤 章第22回 ワンダフル one アワー 小山由美 メゾソプラノ・リサイタル7/22(金)14:00 19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 http://www.hakujuhall.jp小山由美(メゾソプラノ)“悪女のアリア”で酔わせます取材・文:宮本 明Interview 自然に響くしなやかな声。バイロイト音楽祭はじめヨーロッパの歌劇場で豊富な実績を持つメゾソプラノ小山由美の、オペラ・アリアによるリサイタルは「悪女」がテーマ。 「メゾって、悪女かズボン役。どちらかですよね。ソプラノが歌うような夢見る純粋な乙女の役はほとんどないです。だから私のイメージも完全に悪女みたい(笑)。日本語の『悪女』には、魔性の女とか、ちょっと色っぽいニュアンスが含まれていますよね。でも、ドイツ語にはそれはないんです。Böse Frau(=bad woman)っていったら、もう本当に邪悪な女。だから『悪女』はある意味素敵だと思います」 カルメン、デリラ、アズチェーナ(イル・トロヴァトーレ)、ブイヨン公爵夫人(アドリアーナ・ルクヴルール)など、有名悪女たちの濃厚な歌が勢ぞろい。その中で、リムスキー=コルサコフの《不死身のカシチェイ》に登場するカシェーヴナのアリアには、かつて彼女の転機になったエピソードがある。 「恩師のソプラノ歌手ガリーナ・ヴィシネフスカヤ先生(ロストロポーヴィチ夫人)に教わった曲です。私は若い頃ずっと歌曲とオラトリオばかりを歌っていました。ところが、ある時先生の歌曲のマスタークラスを受けたら、『歌曲はもうそれでいい。明日からはオペラを持ってきなさい』とおっしゃるんですよ。エーボリ公女、カルメン、デリラ…。その後、かつてマリア・カラスが住んでいたというパリのご自宅にもたびたび呼んでくださって、メゾのあらゆるアリアを教えていただきました。その中の一曲が《不死身のカシチェイ》だったんです。『ユミは声もセンスもある。身長もある。あなたがオペラを歌わないで誰が歌うんだ?』と勇気づけてくれて。もし先生に出会っていなかったら、私はオペラを歌っていません」 リサイタルでは、さまざまな役を一曲ごとに歌い分けなければならない。 「そこは大変でしょうね。実はアリアばかりのリサイタルは初めてなんです。以前、ヘロディアス(サロメ)とフリッカ(ワルキューレ)を同時期に並行して歌って苦労したことがありますが、今回は1ステージでもっとたくさんの役を演じるわけですから」 そこはオペラ指揮者・佐藤正浩のピアノもサポートしてくれそうだ。 「彼がバリトンだった頃、同時期に芸大で勉強していた仲です。お互い海外に行ってしまったので再会したのは7、8年前ですが、私のやりたい方向をわかって、それをご一緒してくれるのでとても安心しています」6/10(金)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 http://www.proarte.co.jp渡辺健二(ピアノ) フランツ・リストを人生の目標に文:高坂はる香 楽曲への愛着はもとより、その精神への共感から、長らくリスト作品の探究を続けてきた渡辺健二。リスト音楽院留学中にリスト・バルトーク国際ピアノコンクールに入賞し、後年には審査員も務めるなど、ハンガリーゆかりの作品に深い理解を持つ。 今回取りあげるのは、バルトーク、リスト、シューベルト。まずバルトークは「子供のために」第3集。シンプルな音楽の中に、バルトークらしい斬新な和音やリズムが聴かれる作品だ。リストからは、作曲家が信仰心を深める中で書き上げた「2つの伝説」。リスト弾きならではの、豊富な知識に裏打ちされた表現を聴くことができるだろう。そして後半は、深い精神世界を持つシューベルトのソナタ第18番「幻想」に向き合う。 演奏家、教育者として長きにわたり活躍してきた渡辺。「リストが目指した、人を愛し、助け、社会に奉仕することを、勇気をもってやっていきたい。リストは人生の目標」だという。円熟期を迎えた今、このプログラムを通して何を語るのだろうか。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 59

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です