eぶらあぼ 2016.6月号
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51ユーリ・テミルカーノフ(指揮) サンクトペテルブルグ・フィルロシアの名門オーケストラが“伝家の宝刀”を披露文:江藤光紀杉並公会堂開館10周年記念 日本フィル杉並公会堂シリーズ2016小林研一郎 × 日本フィル ベートーヴェン交響曲ツィクルス 第2回楽聖中期の幕開けを、白熱の響きで体感する文:柴田克彦5/30(月)、6/2(木)各日19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp6/5(日)15:00 文京シビックホール問 シビックチケット03-5803-1111 http://www.b-academy.jp7/13(水)19:00 杉並公会堂問 杉並公会堂03-5347-4450 http://www.suginamikoukaidou.com 貴族のような柔らかい物腰で、テミルカーノフが登場する。指揮棒をもたず、優雅に持ち上げた両手が宙空でなだらかな円を描くと、次の瞬間、強烈に硬派な音楽が聴き手を襲う。初めて実演に接した時から、このギャップにやられてしまった。独特なオーラをもった指揮者である。 近年は読響などにも客演し接する機会が増えたが、テミルカーノフの精髄に触れるには、1988年より長らくシェフを務めているサンクトペテルブルグ・フィルとの公演を押さえるべし。ムラヴィンスキーが半世紀にわたって鍛えあげたこのオーケストラの個性とクオリティを、テミルカーノフは前任者とは違ったアプローチで維持し、高めてきた。 さて、今回も伝統を踏まえた重量級ロシア・プログラムがそろった。サントリーホールの2公演はいずれもショスタコーヴィチをメインに据えている。5月30日は超人気曲、交響曲第5番。時の コバケンが振るベートーヴェンの交響曲を聴くと、それらの音楽がもつスケールの大きさを、改めて実感させられる。特に大晦日恒例の『全交響曲連続演奏会』でまとめて味わうと、どの曲も差のない“重み”を有していることが肌でわかる。その9曲と主要協奏曲を、今度は7ヵ月かけてじっくり堪能できるのが、杉並公会堂開館10周年記念の『小林研一郎×日本フィル ベートーヴェン交響曲ツィクルス』だ。 7月の第2回の演目は、「ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲」と交響曲第3番「英雄」。共に1804年に作曲された「op.56」と「op.55」、すなわち両ジャンルで“傑作の森”中期の幕開けを告げる音楽である。勇壮ながらもチャーミングな三重協奏曲と、堂々たる威容で交響曲の歴史を変えた「英雄」の両曲を通して、同時期の作品の共通点と個々の違いを目の当たりにできる点が、今回の妙味といえソヴィエト政府からの批判を受けて書かれた作品で、暗く抑圧的な曲調が結末に向けて勝利の凱歌へと変わる。6月2日は交響曲第7番「レニングラード」。こちらは第2次大戦中、ドイツ軍の包囲網が迫る中作曲された。同フィルにとっては“伝家の宝刀”というべき作品。筆者は10年ほど前の来日公演でその迫力に度肝を抜かれた。30日の公演では、諏訪内晶子がチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴かせてくれるのも嬉しい。るだろう。 演奏自体もむろん楽しみだ。日本フィルは、コバケンがかつて音楽監督を務め、桂冠名誉指揮者就任後も定期的に共演している旧知の間柄。しかも彼は70歳を超えて円熟味を増し、日本フィルはここ数年の充実著しい。それゆえ“今”の両者だからこそ可能な、密度の濃い名演が期待される。三重協 文京シビックホールの公演は、「シェエラザード」(リムスキー=コルサコフ)と「悲愴」(チャイコフスキー)とロシアの大名曲を並べた。サントリー公演とかぶらない独自選曲なので、こちらも要チェックだ。奏曲のソリストは、日本フィルのソロ奏者の木野雅之と菊地知也、そして内外で活躍するピアノの小林亜矢乃。親密さが重要な作品に相応しい顔ぶれだ。もうひとつ注目すべきは会場。1190席の杉並公会堂大ホールは、オーケストラの迫真的なサウンドが全身を包む稀有のホールだけに、その意味でも貴重な公演となる。諏訪内晶子 ©TAKAKI_KUMADAユーリ・テミルカーノフ小林亜矢乃 ©H.Uchida菊地知也木野雅之 ©明石一矢小林研一郎
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