eぶらあぼ 2016.6月号
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第20回 フランスのコンテンポラリー・サーカスと、チェコの『残念なお知らせ』 20日間でパリやプラハなど5都市4つのフェスティバルを巡る、長めの海外取材に行ってきた。ふたたびクラウド・ファンディングを立ち上げ、無事達成して心おきなく取材ができた。本当に感謝している。 今回の目的は、盛りだくさんだった。まずは「コンテンポラリー・サーカス(CS)」。ダンスが忘れつつある強い身体性と高い芸術性で、いままさに世界中で爆発的に進化している。アジア各国も注目しているのに日本だけポーっとしているので、そのリサーチにいってきたよ。 もはやジャグリングも、球や棒など、お定まりのモノを操る必要はない。何かを動かせば、それは全てジャグリングなのだ、とする「オブジェクト・マニピュレーション」という幅広い考え方まで登場している。昨年来日したエティエンヌ・マンソー『Vu (ヴュ)』などは、「指で弾いてスプーンに載せた角砂糖をコーヒーカップに入れる」という「ちゃぶ台の上のサーカス」をやって見せたしな。かと思うと、パリで見たユアン・ブルジョア『The one who falls』のように、巨大な床全体が天井から吊り下がったり舞台上で高速回転するような(無論ダンサーはその上に乗っている)、大掛かりなものもある。サーカスの技術が、様々なアートを取りこんで異次元の方向に展開しているのだ。 こうした驚きやワクワクが「次のダンス」の鉱脈だとオレは見ている。日本でも高松にCSの拠点を作ろうとしていたり、8月のトヨタ コレオグラフィーアワードにはCS作品が出るなど、注目の動きは始まっているので、ぜひとも注目しておいてほしい。 さて海外取材の目的は他にもあった。いま盛り上がっているチェコのダンス、そして小国ながらアツい才能のダンサーを集めて世界のディレクター達に見せるエアロウェーブというフェスである。今年で20Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお回を迎える。こういう志の高いフェスをやるのは、さすがヨーロッパである。 エアロウェーブが面白いのは、招待されたゲストが自国のワインを持ち寄ることだ。一日の終わりにディレクターやアーティストが交流する重要な時間に供されるのである。世界中のワインを味わうことができ、なによりフェス側の負担を軽減できる。ホームパーティ仕様の素晴らしいアイディアだ。 しかし最終日の公演終了後、コミカルなダンス作品を上演していたイタリア人パフォーマーがマイクを握りゲストに「じつは皆に、残念なお知らせがあるんだ」と語り始めた。「今晩が最後のパーティだ。しかし残念なことに、ワインがもうないんだ! 特に赤が一本もない。いいか、オレたちはこれからこの劇場を出て、パーティ会場へ歩いて移動する。そして劇場の前には、大きなマーケットがある…。オレが何を言いたいかわかるな!? 皆、この2日間、たらふく美味いワインを飲んだことを思い出してくれ。もう一度言うぞ。劇場を出て、信号を渡ったら、マーケットに入って、一人一本ワインを買って、それからパーティ会場に向かうんだ!いいな!? 赤ワインだぞ!」 満場のゲストは大爆笑。その後のパーティ会場に並んだ赤ワインは20本ほどだけだったけど、皆で分け合って飲んだ。 フェスティバルには金がかかる。金がないなら頭を使えばいい。そこでセンスが問われるけれどもな。260

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