eぶらあぼ 2016.6月号
177/211
1908月+「夏の音楽祭」(その2)の見もの・聴きもの曽そし雌裕ひろかず一 編 本号では前号に引き続き、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭、コメントできなかった要注目公演もたくさんあります。ご容赦のほどお願いいたします。 また、◎印を付けた公演は、注目度も高く人気のある公演も多いため、発売早々に完売となっているケースも十分に考えられます。その点もお含みおきの上、ご参照下さい。●【夏の音楽祭】(8月分)〔Ⅰ〕オーストリア ザルツブルク音楽祭のオペラ公演に全て◎印を付けたことには、いささか眉をひそめるオペラ・ゴーアーの方もいらっしゃるだろう。確かに、その時代を代表するトップアーティストをずらりと揃えた豪華絢爛・ハイソサエティ指向の音楽祭の輝きはもはや最近のザルツブルクにはない。しかし、今ひとつ目玉を欠く中でもアデスの新作オペラを持ってきたり、ウィーンではすでに聴くことのできないウェルザー=メストとウィーン・フィルの組み合わせによるオペラを観ることができたり、意表を突いたバルトリ出演のバーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」を登場させたりと、何かインパクトを創り出そうとしてもがいている気配はある程度感じ取れる。そんな意味も含めてやや好意的に◎印を付けたことをお断りしておきたいが、ただ、そんな中にあっても、ヘルマニスの演出によるR.シュトラウス「ダナエの愛」や、フローレスを主役に起用したオットー・ニコライのオペラ「神殿の騎士」などには興味を惹かれる。室内楽での、ピアノのシフとエルサレム四重奏団の共演によるヴァイベルクのピアノ五重奏曲とか、同じシフがザルツブルク・マリオネット劇場と共演するコンサート、グリゴリー・ソコロフのピアノ・リサイタルなどもザルツブルクでなければ聴けない…というものではないとしても、機会を作って聴いておきたい演奏会ではある。 「ブレゲンツ音楽祭」では、ミロスラフ・スルンカ(キリル・ペトレンコがバイエルン州立歌劇場でプレミエを振って評判を呼んだオペラ「南極」の作曲者)の新作オペラ「メイク・ノー・ノイズ」がどのようなものか興味津々。「インスブルック音楽祭」では、チマローザ「秘密の結婚」とチェスティ「夢の中の結婚」の「結婚」2演目のほか、かつてこの音楽祭の「主」であったルネ・ヤーコプスが、演奏会形式ながらグルックのオペラ「アルチェステ」を振るというのがファンにとっては衝撃的な出来事。できれば、ヤーコプスには本格的に復帰してもらいたいと願っているファンは決して少なくはないだろう。〔Ⅱ〕ドイツ 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」、「MDR音楽の夏」、「ラインガウ音楽祭」は、共に性格の似た広域音楽祭。本欄では主要公演しか取り上げていないので、公演の全容や公演地・会場の詳細は、ぜひ音楽祭HP等でご確認いただきたい。なお「ラインガウ音楽祭」では、本文に取り上げた地区の他にも、ヴィースバーデンから西に約20キロ離れたヨハニスブルク城(ガイゼンハイムの郊外)で、室内楽の優れた演奏会も数多く開かれている。「ブレーメン音楽祭」(8月分)では、常連のダントーネ指揮アカデミア・ビザンティナによるロッシーニ「タンクレディ」と、パーカッションのグルービンガー親子とピアノ・デュオのエンダー姉妹が組む現代曲による演奏会が面白そう。「バイロイト音楽祭」は、先月号でも触れたとおり、大ブレイクしたペトレンコに代わって「リング」を振るヤノフスキのお手並みと、フォークトの題名役でチケット人気爆発の「パルジファル」プレミエが今夏の注目の焦点。〔Ⅲ〕スイス 「ルツェルン国際音楽祭」では、アバドが生前この音楽祭で企画しながら、公演間近に曲目変更になってファンをガッカリさせたマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」が、指揮をリッカルド・シャイーに代えて、今年ついに演奏される。藤村実穂子も歌手陣に加わるこの演奏はモニュメンタルな意味でも要注目公演。同じマーラーでは交響曲第7番を演奏するラトル=ベルリン・フィルの客演公演も見逃せない。近現代オペラで特に本領を発揮するソプラノのバーバラ・ハンニガンが自ら指揮もしながらベルクの「ルル」も歌うという公演もエキサイティング。〔Ⅳ〕イタリア 夏の間「カラカラ劇場」でオペラ公演を行うローマ歌劇場については先月号の本欄でも触れたが、ヴェローナやトーレ・デル・ラーゴ、マチェラータなど、イタリアの夏の音楽祭は野外ステージでの公演に有名どころが多い。そうした中、通常の室内劇場で繰り広げられるロッシーニの饗宴が「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」。今年も「湖上の美人」「イタリアのトルコ人」「バビロニアのチロ」など、いずれも充実したロッシーニのオペラ上演となるに違いない。〔Ⅴ〕フランス 〔Ⅵ〕ベネルクス フランスでは、ピアノ中心の一大音楽祭である「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」を紹介した。この音楽祭は7月中から始まっているが、先月号では詳細が未発表であったため、今月号で7月も含めた主要公演のみを記述した。また、昨年も触れたとおり、ベルギーやオランダでは古楽中心の魅力的な音楽祭も開催されているので、ぜひ探してみていただきたい(例えば、ベルギーのアントワープでは、http://www.amuz.be/nl/tickets-laus-polyphoniae-2016/、オランダのユトレヒトでは、http://oudemuziek.nl/festival/ などを参照)。〔Ⅶ〕イギリス 「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」(8月分)では、昨年に引き続いて大野和士が指揮台に立ち、今年はブリテンの「真夏の夜の夢」を演奏する。「エディンバラ国際フェスティバル」では、ガーディナー指揮のバッハ「マタイ受難曲」、ゲルギエフ指揮のワーグナー「ラインの黄金」(演奏会形式)、ジェレミー・ローレル指揮フライブルク・バロック管のモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」、シフがピアノ独奏を担当するブロムシュテット指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管を注目公演とした。「コジ・ファン・トゥッテ」は、従来ならばルネ・ヤーコプスが指揮台に上りそうなところだが、ウィアム・クリスティ門下のジェレミー・ローレルが振る「コジ」というのもなかなか興味をそそられる。「プロムス」では、例によってサロネンが振るデュティユーやマーラーはいかにも精度の高いシャープな演奏が予想されるが、同じ北欧でもデンマーク出身のダウスゴーはもう少し音楽が暖色系で懐も深い。サロネンと合わせて、その前日(8日)にダウスゴーでストラヴィンスキーの「春の祭典」を聴くというのも一興か。また、ビエロフラーヴェクがBBC響を振るヤナーチェクの「マクロプーロス事件」も要注目。ビエロフラーヴェクは残念ながら日本のオーケストラにはほとんど客演してくれなくなってしまったが、海外での演奏評を見ると、その評価は日本で予想するよりずっと高いのでご留意のほど。〔Ⅷ〕北欧 スウェーデンの「ドロットニングホルム・オペラ・フェスティバル」には、ミンコフスキが2015-2017年の3年間にわたって登場し、モーツァルトのダ・ポンテ三部作を振ることになっている。というわけで、昨年の「フィガロの結婚」に続いて今年は「ドン・ジョヴァンニ」(ちなみに来年は「コジ・ファン・トゥッテ」。なお最終年には3部作一挙上演も予定)。ミンコフスキ・ファンにとっては、まさに見逃せない重要公演。(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)2016年8月の
元のページ