eぶらあぼ 2016.6月号
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文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人名歌手の歌声に浸りつつお酒を嗜むひととき 新宿三丁目の「Bar Caruso(バー カルーソー)」を初めて訪れた時のことは、今でもよく覚えている。眉目秀麗なオーナー・バーテンダーは、微笑みながら「エンリコと呼んでください」と名刺を差し出した。声楽に疎い筆者は、空間を改めて見回し、流れる音楽に注意を払うことで、その意味をようやく理解した。 ヴェリズモ・オペラの伝説的名歌手と讃えられたイタリア稀代のテノール、エンリコ・カルーソー(1873-1921)。それが店名になっていたのだ。 オーナーの鈴木建太さんは、代官山や新宿などのバー勤務を経て、2004年にこの店を開業。カルーソーとの出会いは、24〜25歳頃。独立前に勤めていた店に客が持参した録音を聴いたのが最初だったそうだ。 「一聴して、その充実した歌声と豊かな表現力の虜になりました。酒に例えると、カクテルの王様『マティーニ』といったところでしょうか(笑)」 美術制作会社「ヌーヴェルヴァーグ」が手がけた空間(カウンター5席&テーブル4席)は、バックバーに石が積み上げられ、天井には1930年代のアメリカ製シャンデリアが輝く。また、入口やテーブル席の前には美しく豪奢なカーテンが掛けられており、BGMはもちろんカルーソーをはじめとしたオペラの名盤だ。まるで、王侯貴族のプライベート・オペラハウスに身を置いているような気分に浸れる。 そんな贅沢な時間を彩るカクテルとして、鈴木さんは、ロングの「ウオッカ・トニック」と、ショートの「カルーソー」を作ってくれた。 「前者は、小麦原料のオランダ・ウォッカ『ケテルワン』を使用。絹のように滑らかな味わいは、最初の1杯にお薦めです。一方、店名でもある後者は、ドライ・ジン、ドライ・ベルモット、クレーム・ド・ミント・グリーンをステア。ミント・グリーンの透明感が、カルーソーの澄んだ歌声を彷彿とさせます」 鈴木さんは蒸留酒にも造詣が深く、中でも力を入れているのが、シングルモルトウイスキーの「ベンリアック」だ。1994年まではシーバス・ブラザーズ社のブレンデッド・ウィスキー(シーバスリーガルや、サムシングスペシャルなど)の原酒に使われていたため、シングルモルトとしては最近になってリリースされるようになった。 「麦芽の甘さと熟した桃のような風味が持ち味です。ボディは軽めでフレーバーはとても華やかなので、ウイスキーが苦手な方もぜひお試しください」 「Bar Caruso」は、新国立劇場からのアクセスが良いため、終演後に立ち寄る客も多い。また、店内には1930年製の蓄音機も設置。そこから時折流れるエディット・ピアフやマリア・カラスの迫力に満ちた歌声は、公演の感動を鮮やかに喚起してくれることだろう。Bar Caruso(バー カルーソー) 東京都新宿区新宿3-8-8 平田ビル2F 月~金 18:00~27:00 土・祝 18:00~24:00 日曜日  ¥800  03-3351-3585 新国立劇場、東京オペラシティInformationコンサートの余韻を美味しいお酒とともに味わえるホール近くの素敵なバーをご紹介しますBar CarusoVol.5新宿オーナー・バーテンダーの鈴木建太さん189

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