eぶらあぼ 2016.5月号
195/207

勅使川原三郎 連続公演『シナモン』『静か』ダンスの可能性を探る勅使川原の新たな挑戦文:小野寺悦子ロベール・ルパージュ『887』“俳優”ルパージュのソロ作品、日本初演文:藤井慎太郎『シナモン 言葉の破片による動体彫刻』 4/28(木)~5/1(日)『静か 無音が構成する時間とダンス』 5/2(月)~5/5(木・祝)シアターX(カイ)問 KARAS 03-6276-9136 http://www.st-karas.com6/23(木)~6/26(日) 東京芸術劇場 プレイハウス 発売中問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 http://www.geigeki.jp7/2(土)、7/3(日)各日14:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場4/20(水)発売問 りゅーとぴあチケット専用ダイヤル025-224-5521 http://www.ryutopia.or.jp KARASを率いる勅使川原三郎が、この春両国・シアターXを舞台に連続公演を開催。ポーランドの作家、ブルーノ・シュルツの短編をもとにした創作シリーズ最新作『シナモン』と、改訂再演作『静か』の2作品を披露する。 2013年の『春、一夜にして』を皮切りに、これまで7作に渡りシアターXで発表してきたブルーノ・シュルツの創作シリーズ。美しくも妖しいその作品世界は観る者を魅了し、同時に勅使川原の新たな境地として大きな評価を博してきた。シリーズ8作目となる本作では、シュルツの第一短編集であり15作品からなる「肉桂色の店」より抜粋・再構成に着手。テキストの語りを巧みに駆使し、言葉とダンスのさらなる関係性を探る。 一方『静か』は、KARASの拠点・荻窪アパラタスの公演シリーズ “アップデイトダンス” で今年1月に上演された『静か 無音のダンス』の改訂再演作。タイ ロベール・ルパージュ演出作品の来日が相次いでいる。『針とアヘン』(2015年10月、世田谷パブリックシアター)、シルク・ドゥ・ソレイユ『トーテム』(16年2月~)に続いて、ルパージュ自らが出演するソロ作品『887』が東京芸術劇場、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館で上演される。ルパージュは世界的に最も注目される演出家であるだけでなく、自らがきわめてすぐれた俳優でもある。そんなルパージュの色々な顔を一度に楽しむことができる、またとないチャンスである。 『887』は自伝的な色彩の濃い作品であり、いささか謎めいたタイトルは、彼が子ども時代を過ごしたアパートメントがケベック・シティのマレー通り887番地にあったことから来ている。ケベック・シティはケベックの州都であるが(彼らは「首都」と呼ぶ)、ケベックでは1960年代からカナダからの分離独立を求めるナショナリズム運動が強まった。そのケベックの歴史がルパートル通り一切の音を用いることなく、60分余りのステージを展開してゆく異色作だ。薄闇に包まれたステージに立ち、無音の空間で黙々と踊り続ける勅使川原と佐東利穂子のふたり。踊り手の内に響き渡る荘厳な音楽、そして会場を包む圧倒的な静寂が拮抗し、ひとつの作品を形成する。それは勅使川原が切り開いたダンスの新たな在り方であり、ダンスの可能性に対するひとつの答え。アパラタスのジュの半生に重ね合わせられる。 複数の役と言語を演じ分ける、俳優としてのルパージュの魅力あふれる演戯、ユーモラスであると同時にほろ苦く、切なさを感じさせるテクスト、相変わらず巧みとしかいえない映像の用い方、回想される記憶の情景を表すミニチュアの舞台美術(ルパージュ作品では、舞台装置もまた容貌と表情を変え続ける役者の一人な密なる空間からシアターXへとステージを移し、舞台はどう変貌を遂げるのか、その行方を見届けたい。のだ)…と、本作品の見どころは尽きない。ぜひ舞台の近くに席を構えてご堪能のほどを。『シナモン』より 撮影:坂口亜耶Photos by Érick Labbé254

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 195

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です