eぶらあぼ 2016.5月号
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172CDCDCDCDスクリャービン:ピアノ・ソナタ全集/イリヤ・ラシュコフスキーR.シュトラウス:英雄の生涯、「ばらの騎士」組曲/佐渡 裕&トーンキュンストラー管コダーイ&カサド:無伴奏チェロ作品集/安田謙一郎ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」/井上道義&大阪フィルスクリャービン:ピアノ・ソナタ第1番~第10番イリヤ・ラシュコフスキー(ピアノ)R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」、「ばらの騎士」組曲佐渡 裕(指揮)トーンキュンストラー管弦楽団コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタop.8カサド:無伴奏チェロ組曲カザルス(安田謙一郎編):鳥の歌安田謙一郎(チェロ)ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」井上道義(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団日本アコースティックレコーズNARD-5053~4(2枚組) ¥3500+税ナクソス・ジャパンTON-1001 ¥オープンマイスター・ミュージックMM-3071 ¥3000+税収録:2015.11/27,11/28、フェスティバルホール(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00586 ¥3000+税音符の詰まったスクリャービンの楽譜を、足早なテンポでしなやかに音にしていく。さながら千手観音である。たゆたうアルペジオは、春の風に乗って舞う無数の桜の花びらだ。がしかし、作品が進むにつれ風は激しさを増し、渦を巻く花びらは妖しい香気を放ちながら聴き手を夢幻界へと誘っていく。ディスクを換え6番以降に進むと、桜は揺らめく炎へと姿を変え、地響きとともに暗闇に稲妻が走る。2012年浜松国際の覇者ラシュコフスキーによる作曲家没後100年記念ディスクは、作品の持つイマジネーションを驚異のテクニックで解き放ち、スクリャービンの脳内をハイビジョン・スクリーン上に投影する。(江藤光紀)昨秋、佐渡がトーンキュンストラー管のシェフ就任直後に行った録音。今後を占う“出会いの記録”だが、結果はことのほか素晴らしい。「英雄の生涯」は、たっぷりとしたテンポによる、柔らかくふくよかな音楽。ウィーンのオケの美点が最大限に発揮されている。中でも「英雄の伴侶」は、瑞々しいヴァイオリン独奏(実に見事!)と相まってすこぶる美しく、「英雄の戦場」もいつになくこまやか。「ばらの騎士」は、かような特色が当然フィットし、艶美な音楽は(「英雄〜」ともども)シルクの織物のようだ。両者の相性の良さと共に、佐渡の新境地を示した1枚。(柴田克彦)端正で朗々とした音楽作りが印象的だった前作(J.S.バッハの無伴奏組曲全曲)とはいい意味で好対照な無伴奏作品集だ。のっけからあまりの気迫に満ちた雄弁な語り口で、全身の血が一度に沸き立った。コダーイは強弱や表情の幅が実に広く、楽章が進むにつれて、鮮やかさと切れ味の鋭さを増してゆく。続くカサドは、安田の恩師ということもあってか、深い共感に満ちた格調高い表現が秀逸だ。そして最後を締め括るのが、安田が自ら編曲した「鳥の歌」。低音に加えられた左手の分厚いピッツィカートが、傷ついた鳥たちに捧げる手向けの経文のように胸にしみる。(渡辺謙太郎)かつて日比谷公会堂で敢行された交響曲全曲プロジェクトをはじめ、井上はこれまでにもショスタコーヴィチに一方ならぬ思い入れを抱いてきた。首席指揮者を務める大阪フィルとも就任早々4番を録音したが、それに続いて「レニングラード」が登場。全篇にわたり凄まじいパワーがみなぎる熱演で、隅々まで歌心を満たした冒頭主題(最後に回帰する)からミッキー節が炸裂する。スネアドラムのリズムに乗って、ひたひたと迫ってくる第一楽章の長大なクレッシェンドの迫力はどうだろう。大フィルのアンサンブル能力も目を見張る水準にあるし、これだけの大音響をクリアにとらえた録音も素晴らしい。(江藤光紀)

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