eぶらあぼ 2016.4月号
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86追悼86ニコラウス・アーノンクール©INAMORI FOUNDATIONNikolaus Harnoncourt1929-2016 古楽界の先駆者として活躍を続けてきた、指揮者のニコラウス・アーノンクールが3月5日、86歳で死去した。1953年に古楽器オーケストラ「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(CMW)」を立ち上げて、60年余り。ウィーン・フィルやベルリン・フィルをはじめとする、モダン楽器による第一線オーケストラにも積極的に客演して多大な影響を与える一方、「決して同じ演奏は繰り返さない」と公言し、齢を重ねるにつれて、ますます先鋭の度合いを高めていった。そして、昨年12月5日の引退表明からちょうど3カ月での訃報。最後まで決して妥協を許さない、見事な芸術家人生であった。 ハプスブルク家の流れを汲む名家の血筋に生まれ、ウィーン国立音楽院在学中、後にバロックヴァイオリンの大家となるエドゥアルト・メルクスらの交流の中から、古楽の考え方に触れた。そして、1949年にウィーン・ガンバ・カルテットを結成するが、52年にはウィーン交響楽団のチェロ奏者として、いったん“就職”。翌年に設立したCMWの活動としばらく併行させたが、69年には指揮に専念することに。89年には、グスタフ・レオンハルトとの協働で、初の古楽器によるバッハの教会カンタータ全集録音を完遂。1974年からコンセルトヘボウ管弦楽団とコラボレートを始めるなど、古楽のコンセプトをモダン楽器に応用する一方、近現代作品の指揮にも手を染めた。 2005年に京都賞を受賞し、その受賞セレモニーとワークショップのため、25年ぶりに再来日。ワークショップでは、バロック時代の記譜と実際の演奏習慣について詳述した。特に、レチタティーヴォにおける通奏低音の全音符など、記譜よりも短く奏される点を強調。「記譜通りとの説も」との異論にも、「ジェット機のエンジン音じゃあるまいし…」と強く否定した。続いて、京都フィルハーモニー室内合奏団を実際に指揮しながら、モーツァルトの演奏解釈についてレクチャーも行った。また、これに先立っての会見の折、「最近のCMWの楽器の時代考証が、少々甘いのではないか」と質問すると、ニヤリと笑って、「どんな楽器を使うかではなく、どう演奏するかの方が重要だ」と回答した。 その翌年には、CMWとアーノルト・シェーンベルク合唱団を率いて再来日を果たし、モーツァルト「レクイエム」やヘンデル「メサイア」などを披露。歌詞の内容によっては「憎々しく、荒々しく歌ってほしい」と声楽ソリストに要求する一方、弦楽器のボウイングを柔軟に変更して、言葉と器楽のニュアンスの一致を徹底し、ホールごとの音響を考慮してサウンド・コンセプトを変えるなど、鋭敏な感性に基づく秀演を聴かせた。この直前にはウィーン・フィルとも共演し、モーツァルトの後期三大交響曲を日本のファンに披露した。そして、10年にはCMWとシェーンベルク合唱団と再び来日し、バッハ「ミサ曲ロ短調」やハイドン「天地創造」などを演奏。これが日本の音楽ファンに見せた、最後の雄姿となった。文:寺西 肇

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