eぶらあぼ 2016.4月号
83/221
80©藤本史昭エスポワール シリーズ 10 北村朋幹 Vol.3̶ solo ふたたび4/12(火)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com北村朋幹(ピアノ)俊英が成長と変化を顕す、刮目の最終章取材・文:柴田克彦Interview 2013年に始まった北村朋幹のトッパンホール〈エスポワール シリーズ〉が、最終回(第3回)を迎える。当シリーズは俊英がトッパンホールと共同で飛翔を期す企画であり、北村は10人目のシリーズ・アーティスト。繊細で知的なピアニストとして10代から活躍する彼は、近年他の公演も含めて当ホールに再三出演し、20代前半の重要期に大きな糧を得ている。 「毎回幸せに思うのは、公演までの数日間、満足いくまでホールでリハーサルができることです。一人ピアノと向き合っていると、ホールが楽器の一部に感じられ、自分の部屋で練習しているような錯覚にさえ陥ります。このホールは、何事も無難で素早いことが主流の世の中で、そこから最も遠い地点にあるべき音楽とじっくり向き合える、とても貴重な場所です」 中でも〈エスポワール〉は、成長と変化をもたらした。 「特に、色々と苦しい時期にヴァイオリンのダニエル・ゼペックさんと共演した前回は、音楽に救われ、今後も音楽を続ける勇気をもらいました。プレッシャーを感じる企画でしたが、その結果今見えている景色は、自分の人生に必要不可欠なものだと思っていますし、このシリーズを機に演奏家という職業について深く考えるようにもなりました」 第1回と同じ「ソロ」の今回は、進化した現在地を確認する公演。ベートーヴェン、シェーンベルク、ブラームス、リストの作品が並ぶ内容だ。特にブラームスのソナタ第3番は、彼の変容を示唆している。 「第1回から2年以上経ち、音楽を純粋に捉えて全てを肯定できた時に生まれる感動を、素直に音に変換したいと感じています。例えばブラームスの第3番のソナタなど、1年前は興味すらなかったのですが、偶然聴く機会があり、その後しばらくこの曲のことばかり考えていました。理由は分からないのですが、そうした言葉で表わせない感動こそが音楽の根源的な美しさかもしれません。また最近は、音楽の流れにただ身を委ねて演奏してみたいと思っていて、自分の理性など簡単に凌駕する“あの”ソナタの濃厚なロマンティシズムに、新しい挑戦を“助けて”もらいたいと考えました」 3回の柱をなすベートーヴェンは「6つのバガテル op.126」。これも意外だ。 「この企画にあたってベートーヴェンの多くの作品に触れました。しかし昨年、現時点での限界に辿り着いたのを感じ、そこからまた新しい一歩を踏み出したいとの願いも込めて、最後のピアノ曲を選びました。でもそれより、ただ素晴らしいこの作品が昔から大好きなのです」 今後は「何物にも影響されない強い精神力と自信を持ち、全ての物事に心を開いた状態で接することのできる音楽家、というよりも人間になりたい」と語る彼。今回その進化のマイルストーンをしかと見届けたい。4/23(土)第一部 12:00 第二部 16:30 サンパール荒川問 東京国際芸術協会03-6806-7108 http://www.tiaa-jp.comオペラ劇場あらかわバイロイト 第6回 特別演奏会ワーグナー・グランドガラコンサートワーグナーの魅力満載の大規模なコンサート文:宮本 明 あらかわバイロイトは、その名称のとおりワーグナー作品を中心に、民間の音楽事務所と荒川区が協力して活動するオペラ・プロダクション。活動の核となるのが2009年から開催する「ワーグナー音楽祭」で、これまでに《パルシファル》(09)《ワルキューレ》(10)《神々の黄昏》(11)《ラインの黄金》(12)《トリスタンとイゾルデ》(13)を、演出付きで舞台上演してきた。14年と15年はワーグナー上演はなかったようだから、4月23日に行なわれる「ワーグナー・グランドガラコンサート」は、そのリスタートの“のろし”なのかもしれない。曲目は前記演目の抜粋に《ニュルンベルクのマイスタージンガー》前奏曲などを加えたプログラム。歌手陣は、田辺とおるや小畑朱実をはじめ、各方面で活躍するベテラン・中堅を含む多彩な顔ぶれ。若手奏者たちによるTIAAフィルハーモニー管の実力も高い。指揮は音楽監督を務めるドイツの指揮者クリスティアン・ハンマー。田辺とおる小畑朱実クリスティアン・ハンマー
元のページ