eぶらあぼ 2016.4月号
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56下野竜也(指揮) 読売日本交響楽団“永遠性”への憧れを歌うフィンジの知られざる大作文:江藤光紀第105回 紀尾井シンフォニエッタ東京 定期演奏会弦楽オーケストラの三者三様を味わい尽くす文:飯尾洋一第557回 定期演奏会4/14(木)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp6/17(金)19:00、6/18(土)14:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp “これぞ”という隠れ名曲を探し当てる発掘力、それをよく知られている作品と組み合わせ、バランスのとれたプログラムに仕立てる企画力、さらになんといっても安定感のある、ダイナミックな演奏を導くリード力。それぞれの能力を研ぎ澄ませ話題公演を連発する下野竜也は、音楽界でもいまやひときわ個性的なカラーを放っている。 4月定期も練りに練ったコンサートが楽しめそうだ。まずは池辺晋一郎「多年生のプレリュード」。読響のポテンシャルを開放させるような豪快な前奏曲で、2011年の読響定期500回記念のために書かれ、初演の指揮も下野だった。大地に根を伸ばし繰り返し花を咲かせる多年生植物の名前通り、5年の年月を経て再演されることになった。その生命力は、後半披露されるフィンジ作品のワーズワースの詩句とも響きあうだろう。 続いてベートーヴェンの交響曲第2番。古典派のスタイルを持ち、若い作曲家の勢いがあふれる曲で、パワフル 紀尾井ホールのレジデント・オーケストラとして、意欲的な活動を展開する紀尾井シンフォニエッタ東京。毎回、室内オーケストラならではの工夫が感じられるプログラムが興味をひく。第105回定期では、ブリッジの「弦楽のための組曲」、ペルトの「タブラ・ラサ」、ドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」という3曲が演奏される。つまり、今回は弦楽オーケストラのためのプログラムが用意された。 リーダーとしてアンサンブルを率いるのは、ヴァイオリニストのアントン・バラホフスキー。現在、バイエルン放送交響楽団のコンサートマスターを務める実力者である。ソリストや著名楽団の首席奏者たちが顔をそろえた精鋭集団とともに、精妙で潤いの豊かなサウンドを作り出してくれることだろう。 今回の公演では3曲それぞれが異なる時代と地域から生まれた作品である点もおもしろい。フランク・ブリッジはな池辺作品に組み合わせたあたりに、下野らしい選曲の着眼点を感じる。 そして後半は20世紀前半を生きたイギリスの知られざる作曲家ジェラルド・フィンジの代表作「霊魂不滅の啓示」が取り上げられる。これはイギリスのロマン派詩人ワーズワースのオードに付曲したもので、自然の美やピュアだった幼年期を回顧しながら、自らの憂いやブリテンの師として知られるイギリスの作曲家で、「弦楽のための組曲」は擬古的な装いを持った20世紀初頭の作品。ペルトは現代エストニアの作曲家で、「タブラ・ラサ」は静謐さとリリシズム永遠性への憧れを歌ったもの。広大な自然を前にした詩人の心の動きを、美しいメロディと壮大な管弦楽法で巧みに音にしている。 青年の煩悶を歌うテノールには美声が求められるが、ロビン・トリッチュラーはイギリスを中心に頭角を現しつつある。合唱にソリスト集団ともいうべき二期会合唱団が入るのも面白そうだ。を湛えた代表作のひとつ。ドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」は19世紀後半の民族主義から生まれたこの分野の記念碑的名作。弦楽オーケストラの三者三様を味わい尽くすことができそうだ。紀尾井シンフォニエッタ東京アントン・バラホフスキーロビン・トリッチュラー ©Sussie Ahlburg下野竜也 ©読響
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