eぶらあぼ 2016.4月号
210/221

第18回 いま手にしている物は、とりあえず捨ててしまえ! 2月は過剰な月だ。横浜ダンスコレクション、TPAM、そしてオレがアドバイザーをしている福岡ダンスフリンジフェスティバルと、国際的なイベントが集中している。 しんどかったが、今年は横浜も福岡も良い作品が沢山あった。これはもう、日本全体で新しいダンスの層が育ってきているということだ。若いダンサーは、今が頑張りどころだぞ! で、今回若いダンサーの作品で「惜しいな」と思ったタイプが二つある。 まず「作品の展開に工夫はあるが、個々の振りはオーソドックスな動きの組み合わせだけで作っているタイプ」である。ひとつのアイディアをもとに構成し、的確にポイントを稼ぎ、減点されにくい造りになっている。これは、なまじ優れたダンサーだったり、豊富なコンクール受賞経験者などに多い。手持ちの技が多ければ、その組み合わせだけで、それなりのものはできてしまう道理だ。 しかし、それでは「新しい何か」を生み出すことはできない。アーティストのクリエイションは、教師や審査員の得票を目指す試験とは根本的に違うからだ。安全な「うまさ」を突き抜けて、人の心を揺さぶるものじゃなきゃいかん。バランスなんぞは崩れていても、時代を超えて「なにこれすげえ!」と、人の魂を魅了してこそのアートだからな。 もうひとつは、「個々の振りは面白いが、寄せ集め感満載の『面白振付集』タイプ」。これは作品を創り始めの時に多い。とりあえず身体を動かし、面白いフレーズをいくつかストックしておいて、あとはその組み合わせで作品を作っていくパターンである。しかしストリート系など、動きメインの数分間の作品ならいいが、それだけでは一時間近くを見せるのは難しい。なPrifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかおぜなら人は、刺激に慣れてしまうからである。どんなに面白い動きを並べても、客は必ず飽きる。逆にいえば、名作と言われる2時間近いダンス作品は、動き以外の何かで観客を魅了しているということだ。それはなにか。 それは舞台上に創り上げた作品世界を貫く振付家自身の「意識の流れ」である。そこが揺るぎない作品は、どんな突飛なことが起ころうと「面白振付集」に堕ちることはない。 だから、このタイプの人は、作る順番を逆にするといいぞ。まずは何を表現したいのかという「意識の流れ」を第一に作る。そしてそこから生まれてくる動きを磨いていくのである。 で、この両者にオレが言うのは「とにかく今の3倍の濃度で作れ!ガンガン詰め込め!収集つかなきゃいきなり終わらせちゃって全然オッケー!」ということだ。 人間、尖った物は丸くなる。しかし一度丸まった物が再び尖ることはない。だから若いうちは、「まとめ方」なんぞは後回しでいい。とにかくやりたいことを全部ブチ込むのだ。まして「3倍の濃度」で作ろうと思えば、手持ちの技だけでは間に合わない。本当のクリエイションが始まるのはそこからだ。若いうちに手にした物など、早々に使い切ってしまえ。とにかく人前にかけて、のたうち回るのだ。本当のアーティストとしての醍醐味は、カラッポになってから味わえる。それを楽しみに、どんどん創って、どんどん捨てていけ!255

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 210

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です