eぶらあぼ 2016.3月号
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184CDSACDSACDCD「展覧会の絵」&《運命の力》序曲/バッティストーニ&東京フィル細川俊夫:大鴉/ヘレカント&川瀬賢太郎&アンサンブル・ルシリンベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集第5巻「極限」/小菅 優アルメニアン・ダンス(全曲)/リード作品集/大井剛史&佼成ウインドヴェルディ:歌劇《運命の力》序曲ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」アンドレア・バッティストーニ(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団細川俊夫:「大鴉」 メゾソプラノと12の奏者のためのモノドラマシャルロッテ・ヘレカント(メゾソプラノ)川瀬賢太郎(指揮)ユナイティッド・インストゥルメンツ・オブ・ルシリン(アンサンブル・ルシリン)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」・第12番「葬送」・第22番・第23番「熱情」・第30番・第31番・第32番小菅 優(ピアノ)リード:春の猟犬、アーデンの森のロザリンド、第2交響曲、ミュージック・イン・ジ・エアー!、アルメニアン・ダンス パート1・2大井剛史(指揮)東京佼成ウインドオーケストラ収録:2015.9/11、東京オペラシティ(ライヴ)日本コロムビアCOGQ-88 ¥3000+税ナクソス・ジャパンNYCC-27298 ¥2778+税ソニーミュージックSICC-19004~5(2枚組) ¥3800+税収録:2014.4/27, 2015.6/12、東京芸術劇場(ライヴ)ポニーキャニオンPCCL-50012 ¥2500+税バッティストーニ&東京フィル、ますます好調。《運命の力》序曲では、冒頭金管群の力感に満ちた厳かな吹奏を聴くだけで既に聴き手に“一味違う”と思わせる吸引力に満ちる。その後の木管楽器によるゆったりした箇所では相当遅いテンポを採用したりと、聴き慣れた曲を“聴き慣れない”やり方で手中に収めながらも、本質的なものにたどりついている。「展覧会の絵」でもテンポのコントラストやアーティキュレーション、表情にユニークな読みが随所で顔を出し、「キエフの大門」では打楽器パートの追加も行なったりと、その果敢な“攻め”の演奏が実に面白い。両曲とも大変な聴き物。(藤原 聡)深夜、亡き乙女の追憶に耽る男の部屋に、一羽の鴉が舞い込んでくる。男はこの冥界からの使者に思いをぶつけるが、鴉は何を尋ねても「もう二度と」と答えるだけだ。やがて男の思考は鴉と混然一体となり、その魂は鴉の影に囚われてしまう…。ランプに照らされた薄暗い部屋で繰り広げられるポーの心理劇を、細川は夢幻能のように描き出した。アンサンブル・ルシリンによるゆったりとした音の背景の中、男がメゾソプラノ(シャルロッテ・ヘレカント)の口を借りて語りだす。それは恐怖や恋慕といった感情の高まりとともに、朗誦となり、叫びとなる。そして「もう二度と!」というつぶやきと共に消えていく。(江藤光紀)5年をかけて取り組んできた、ベートーヴェンのソナタ全曲録音の掉尾を飾る当アルバムに、小菅は「極限」というタイトルを与えた。いわゆる「後期三大ソナタ」の第30〜32番に第22番、そして、「悲愴」「葬送」「熱情」と、その通り、ある意味で“極めた”作品ぞろい。特に、曲ごと、楽章ごと、フレーズごと、いや音符ごとに刻々と色彩が移ろっていく小菅の演奏の変幻自在さと自然さには、ただただ驚嘆させられる。しかも、解釈は多層的で、聴く度に新しい発見がある。特に、昨春の日本ツアーで実演に触れた方は、当録音に聴く、彼女の一層の充実ぶりにも、きっと驚くはず。(笹田和人)2014年1月から佼成ウインドの正指揮者を務める大井が、就任後2回の定期で取り上げた“吹奏楽の神様”の作品集。全体に大井のリードへの愛を感じさせる内容だ。「春の猟犬」は春の訪れが躍動感充分に表現され、晩年の「アーデンの森のロザリンド」「ミュージック・イン・ジ・エアー!」の両小品は実に美しく、交響曲第2番と「アルメニアン・ダンス」はダイナミックかつ細やか。特に「アルメニアン〜」の交響曲的な造作と抒情的な場面での慈しむような情感が、独自の魅力を成している。ゆかりの楽団による没後10年のリード曲集という点でも意義深い。(柴田克彦)
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