eぶらあぼ 2016.2月号
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58© 遠藤倫生小倉貴久子(フォルテピアノ)フォルテピアノが映し出すシューマン夫妻の内面取材・文:飯田有抄Interview チェンバロやフォルテピアノなど、作曲家が生きていた“時代楽器”でバッハやモーツァルトの作品が演奏されるようになって久しい。だが19世紀ロマン派のレパートリーについては、世界的に見てもまだ始まったばかり。小倉貴久子はシューマン夫妻の作品を当時のフォルテピアノでいち早く収録し、アルバム『星の冠~ロベルト&クララ シューマン』をリリースした。使用したのは、夫妻が親しんでいたウィーン式アクションによるJ.B.シュトライヒャーの楽器。小倉自身が所蔵する1845年製のフォルテピアノだ。 「楽器と作品とは密接に関係しています。当時の楽器で弾いたとたん、作曲家が楽譜に書いた記号の本当の意味が、いきいきと伝わってくるのです。ドイツ語の子音のようにはっきりと発音し、平行に張られた弦が多声部をすっきりと響かせる—— そんなJ.B.シュトライヒャーのピアノでシューマン夫妻の作品を録音したいと思いました。10年ほど前に入手した楽器ですが、数年前にこのピアノに合う弦を見つけ、張り替えをし、馴染んできたところです」 アルバムはクララとロベルトの作品が交互に並ぶ。「クララの『前奏曲とフーガ』は、夫妻が仲睦まじく研究していたバッハの影響を受けた作品です。形式こそバロックですが、アイディアは完全にロマンティックです。『クライスレリアーナ』は文学青年だったロベルトが、愛するクララ一人のために、音楽でしか表せない思いを込めた作品。フォルテピアノならではの親密な響きでこの曲を聴いていただきたいです。続くクララの『ロベルト・シューマンの主題による変奏曲』は、最後に2人で過ごしたロベルトの誕生日に贈られた作品です。その数ヵ月後に、ロベルトはライン川に投身自殺をはかります。すでに精神を病んでいたロベルトと自分の未来を予感し、クララは愛する夫の名を世に残そうと、この曲を書いたのかもしれません。ロベルトの名曲『幻想曲』は、私が学生時代から人生の節目に弾いてきた作品です。いつかCDにしたいと願ってきました。クララの『変奏曲』の最後は、第3楽章との共通点を感じます。もともとこの楽章に付けられていたロベルトの言葉『Sternbild 星の冠』を、このアルバムタイトルにしました」 前作のモーツァルト作品集『輪舞』に続き、小倉が「作曲家のプライベートに立ち入るかのような親密さ」をコンセプトにしたというアルバムだ。大切な人を想いながらゆっくりと耳を傾けたい。モーツァルト後期弦楽四重奏曲演奏会2/7(日) ①13:00 ②18:00 上野学園 石橋メモリアルホール問 プロジェクトQ実行委員会(テレビマンユニオン内)03-6418-8617 http://www.tvumd.comプロジェクトQ 第13章 ~若いクァルテット、モーツァルトに挑戦するモーツァルト後期弦楽四重奏曲演奏会モーツァルトという高みを目指して文:宮本 明昨年12月に行われたマスタークラス(クァルテット・ジョイア)写真提供:テレビマンユニオン 2001年にスタートした『プロジェクトQ』は若い弦楽四重奏団の発掘と育成のための企画。若手奏者たちに学ぶ場と発表の場を与えるプログラムだ。参加者たちはまず世界的クァルテット奏者のマスタークラスを受講する。今回は昨年10~12月、実行委員長でもある原田幸一郎のほか、原田禎夫、上海クァルテット、カルミナ四重奏団、今井信子、菅沼準二の講師陣にみっちり教えを受けた。このマスタークラスののち、トライアル・コンサートと称する試演会を経て本公演に臨む。原則的に毎回一人のテーマ作曲家が掲げられており、参加者たちは約半年間ひとつの作品と向き合うことになる。今回のテーマはモーツァルト。全23曲の弦楽四重奏曲の最後の6曲、第18番~第23番に各グループが挑む。参加グループはレモンド・クァルテット、クァルテット奥志賀、ザ・ビストロ・ダブリュー、クラルス弦楽四重奏団、クァルテット・ジョイア、リュミエール・クァルテットの6組。CD『星の冠(シュテルンビルト)~ロベルト&クララ シューマン~』コジマ録音ALCD-1153¥2800+税

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