eぶらあぼ 2016.2月号
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36東京芸術劇場コンサートオペラ vol.3サン=サーンス《サムソンとデリラ》(演奏会形式)理想的なキャスティングで贈るフランス・オペラの傑作文:山田治生東京都交響楽団 「作曲家の肖像」シリーズ Vol.106(最終回) 日本フィナーレは日本人作曲家の佳品を集めて文:江藤光紀2/20(土)15:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 http://www.geigeki.jp3/5(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 都響ガイド03-3822-0727 http://www.tmso.or.jp バルトーク《青ひげ公の城》、ヴェルディ《ドン・カルロス》(フランス語 全5幕版・日本初演)に続く、『東京芸術劇場コンサートオペラ』第3弾は、サン=サーンスの《サムソンとデリラ》(演奏会形式)。フランスを代表する名作オペラの一つだ。ヘブライ人の怪力の英雄サムソンはペリシテ人の美女デリラに誘惑され、捕らえられ、力の源である髪の毛を切られる。力を失い盲目にさせられたサムソンは、ペリシテの神殿に連れて来られるが、神に祈りを捧げることによって最後に怪力を取り戻し、柱を倒して、神殿を崩壊させる。デリラの〈春は目覚めて〉や〈あなた 一人の作曲家に焦点を当ててプログラミングする都響の「作曲家の肖像」シリーズ。このところは趣向を変えて国ごとにテーマを設定していたが、最終回は都響が誇る音楽監督の大野和士が登場し、我が日本の作曲家たちをフィーチャーする。 武満徹「冬(ウィンター)」は1972年の札幌冬季五輪を記念して作曲された。7分ほどの作品だが、吹きすさぶ吹雪のような光景がメタリックな響きに彩られた夢幻的な空間に変容していく。溢れんばかりのアイディアに満ちた前衛的な書法を持ちながら、後年のタケミツ・トーンの息吹も垣間見える興味深い小品だ。 柴田南雄「遊楽(ゆうがく) no.54」は、1977年に都響の定期100回記念に作曲されたもの。博識で知られ古今東西の音の要素を自らの創作に盛り込んだ柴田は、日本古来の歌も収集し実作へと応用した。祝祭的な雰囲気を持つ「遊楽」の声に心は開く〉などのアリア、あるいは、オーケストラによるバッカナールなど、聴きどころ満載の名作である。 サムソンを歌うロザリオ・ラ・スピナはオーストラリア出身。スカラ座などイタリアの主要歌劇場で活躍。2013年の東京芸術劇場シアターオペラ《カルメン》では、ホセを歌っている。デリラはミリヤーナ・ニコリッチ。セルビア出身の彼女は、スカラ座などで活躍し、15年に《アンナ・ボレーナ》のジョヴァンナを歌っても、お囃子などを素材としているという。 メインには池辺晋一郎の近作「交響曲第9番」。作曲家にとって“第九”は特別な意味を持つ。作曲にあたって池辺はベートーヴェンも意識し、合唱こそ含まないものの、全9楽章、演奏時間50分の堂々たる大作が出来上がった。うち6つの楽章ではソプラノとバリトン、2人の独唱者が詩人・長田弘のテメトロポリタン歌劇場にデビュー。そのほか、妻屋秀和、甲斐栄次郎、ジョン・ハオらの低音陣も充実。指揮は第2弾の《ドン・カルロス》を成功に導いた佐藤正浩。東京芸術大学、ジュリアード音楽院で学び、サンフランシスコ歌劇場やリヨン国立歌劇場でキャリアを積んだ、注目のオペラ指揮者だ。管弦楽は首都圏のプロ・オーケストラの奏者を中心に編成されている「ザ・オペラ・バンド」。キストによる歌を歌う。歌詞は自然との交感によって美の観念や世界のはじまりへと誘われていく思考を、わかりやすい言葉で綴ったものだが、それを反映してか、音楽もゆったりとした広がりを感じさせる。2013年、作曲家の古希バースデーコンサートで初演されたが、今回のソリスト、幸田浩子、宮本益光は初演時のメンバーだ。ロザリオ・ラ・スピナミリヤーナ・ニコリッチ妻屋秀和甲斐栄次郎佐藤正浩幸田浩子宮本益光大野和士 ©HARUKI
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