eぶらあぼ 2016.2月号
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31マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)巨匠が紡ぐ巨大な音楽歴史絵巻文:江藤光紀新国立劇場 ヤナーチェク《イェヌーファ》(新制作)白を基調とした舞台に、美しいメロディーが溢れる、愛の物語文:森岡実穂2/28(日)14:00、3/2(水)18:30、3/5(土)14:00、3/8(火)18:30、3/11(金)14:00 新国立劇場オペラパレス問 新国立劇場ボックスオフィス  03-5352-9999http://www.nntt.jac.go.jp/opera ついに新国立劇場でヤナーチェクが! 《イェヌーファ》は、19世紀のチェコの寒村を舞台に、男と女、兄と弟、母と娘のあいだに交錯する、濃密で複雑なドラマを描いた彼の代表作である。望まぬ妊娠の末に捨てられる娘イェヌーファ。彼女から有力者の娘に乗り換える若者シュテヴァ。その弟で、嫉妬から起こした事故で彼女の顔に傷をつけ、悔恨の中で彼女との結婚を望むラツァ。生まれた赤ん坊を「娘の未来のため」と殺してしまう、教会に勤める彼女の継母コステルニチカ。クリストフ・ロイの演出は、冒頭にコステルニチカの監獄収容場面を置き、彼女の回想として本編を導入、白い壁に囲まれた空間を基調に“ムラ社会”の閉塞感を描きつつ、音楽に繊細に反応しながら彼女たちの心のすれちがう瞬間、そして、通い合う場面を積み上げていく。 今回の上演には、ラツァ役のヴィル・ハルトマン、コステルニチカ役のジェニファー・ラーモア、ブリヤ家祖母役のハンナ・シュヴァルツら、ロイ演出のベルリン・ドイツ・オペラ初演時の主要歌手が再集合するので、演技・歌ともに高水準が期待される。特にミヒャエラ・カウネのやわらかくあたたかい歌は、過酷な運命に翻弄されながらも生命力を失わないイェヌーファ像に大きな説得力を与えるものだ。指揮のトマーシュ・ハヌスもバイエルン歌劇場などで活躍するチェコ・オペラのスペシャリスト。オペラの出来を最後に決めるのはやはり指揮者である。彼と東京交響楽団が名歌手達と共にこの劇的な人間ドラマをどう構築していくかも楽しみだ。4/9(土)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール4/16(土)、4/21(木)各日19:00 サントリーホール問 カジモト・イープラス0570-06-9960 http://www.kajimotomusic.comポリーニ・プロジェクト ベリオ、ブーレーズ、ベートーヴェン4/14(木)、4/15(金) 東京文化会館(小)※詳細は東京・春・音楽祭ウェブサイト(http://www.tokyo-harusai.com)でご確認ください。 現役ピアニストの最高峰にそびえるマウリツィオ・ポリーニ。その厳しく彫琢された音楽は、一回ごとに得難い体験を聴き手に与えてきた。また彼の音楽に対する視線は、深い歴史意識に裏打ちされたものだ。ポリーニは同時代の作曲家とも緊密にコラボレートしてきたが、こうした協業は翻って古典的作品の演奏においても、その音楽が作られた時代に居合わせているかのようなアクチュアリティを生み出してきた。 2012年以来となる4月の来日では2プログラム3公演が予定されている。まず、9日と16日ではシューマンにショパンを続ける。シューマンの「幻想曲 op.17」はベートーヴェンへのオマージュとして1838年に作曲されたもので、ショパンからは「英雄ポロネーズ」をはじめ1842年から3年程度の間に書かれた、脂の乗った時期の作品が並ぶ。 一方、21日公演ではショパンから始まる。「幻想ポロネーズ」や「ノクターン op.62」「マズルカ op.59」を経て「スケルツォ第3番」と、ジャンルの広がりが味わえる選曲で、そこから一気にドビュッシーの「前奏曲集第2巻」へと飛ぶ。第1巻の表題性から抽象的な世界へと歩みを進めており、近代音楽において重要な位置を占めるピアノ曲集だ。 どうやらこれはベートーヴェンに始まり20世紀に至るピアノ音楽の指標を押さえたプログラミングのようだ。東京・春・音楽祭のポリーニ・プロジェクト(4/14,4/15 ポリーニは出演しない)はベートーヴェンにベリオ、ブーレーズが組み合わされたプログラムで、併せて聴くと巨大な歴史絵巻が完成するのではないか。©Cosimo Filippini©Monika Rittershaus

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