eぶらあぼ 2016.2月号
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26オペラ《夕鶴》2/14(日)15:00 神奈川県民ホール3/24(木)、3/27(日)各日14:00 東京文化会館問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040※全国公演については下記ウェブサイトでご確認くださいhttp://www.japanarts.co.jp 木下順二の戯曲を團伊玖磨がオペラ化した不朽の名作《夕鶴》。歌舞伎界の市川右近の演出、日本画の巨匠・千住博の美術、森英恵の衣裳、成瀬一裕の照明という、日本を代表する豪華なドリームチームによって2014年1〜4月に新制作された舞台が、今年の2月〜3月にかけて再演される。 「前回よりも確実に向上していると思います。初演の際は、各々の頭の中に“こういうものにしたい”というイメージはあるものの、それが舞台上で最終的にどう融合するのか誰にもわからなくて、混沌の中を必死に進んでいたところがありました。でも今回は、素晴らしいチームワークで同じ頂を目指す“同志”の皆さんと、最初から確信を持って臨むことができます。幸せですね」 初演時は、日本を代表するソプラノでさえ「不安で仕方がなかった」のだそう。なぜなら、佐藤はこの初演が、満を持しての主役のつう初挑戦だったのだ。しかも新演出版は、藁ぶき屋根も着物も出てこない画期的なもの。舞台装置は傾斜のある舞台面の一部を切り取った素の廻り舞台、つうの衣裳は丹頂鶴の配色を生かしたシンプルなドレス。結果、その抽象的なヴィジュアルは、作品が本来持つ優れた音楽性と、時代や国境を問わない普遍性やスケール感を存分に引き出した。まさしくそれは、簡潔な表現に深く豊かな意味合いを込める“日本の美”であり、團がスコアの冒頭に記した「時、いつとも知れない物語。所、どことも知れない雪の中の村」という言葉に込めた思いを具現化した舞台となった。 「嬉しかったですね。團先生のご遺族にも喜んでいただいて、ホッとしました。でも、そこはスタート地点でした。どこまで精度を上げられるかが、今回の課題です」 本作品は「ソプラノにとって、《蝶々夫人》と並ぶ取材・文:岡㟢 香ハードなオペラ」なのだという。オペラ化の際に木下順二が提示した「台詞を一言一句変えてはいけない」という条件から、本作品はオペラ用の脚本に再構成されておらず、主役のつうの歌が非常に多くなっているためだ。逆にそれだけ、ファンにとっては聴きどころ満載だということ。実際、佐藤の透き通った歌声は胸に沁み入り、アリア〈私の大事な与ひょう〉からは、素朴で純粋な与ひょうへの一途な無償の愛、また終盤の〈別れのアリア〉からは、深い深い悲しみが伝わってくる。 さらに今回は「『真手(まで)い』という言葉を胸に演じたい」と佐藤。「真手い」とは、「両手でくるむように真心を込めて大切に」という意味の、福島県飯舘村の方言だという。 「昨春、飯舘村の子どもたちと一緒に歌う機会をいただいた際に、教えていただきました。原発事故で故郷を失ってしまった皆さんの姿は、誰もが求める小さな幸せが、何か大きなものに壊される《夕鶴》の物語と重なります。戦後70年経っても、テロや難民などいろいろな問題が起きている今の時代だからこそ、多くの方に観ていただきたいですね。子どもの頃から知っている物語に込められた、その深いテーマは、オペラになってこそ最高に伝わるものだと私は思っています」 ちなみに指揮は今回も、團のアシスタントを務めていた現田茂夫。世界へ大きく飛翔するであろう新生オペラ《夕鶴》の次なる一歩に、ぜひ立ち会いたい。interview 佐藤しのぶShinobu Sato/ソプラノ オペラ《夕鶴》つう役両手でくるむように、真心を込めて大切に演じたい

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