eぶらあぼ 2016.1月号
39/215

36チョ・ソンジンSeong-Jin Cho/ピアノ純粋で輝かしいエモーションを伴った演奏を目指します取材・文:高坂はる香 先の第17回ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝に輝いた、チョ・ソンジン。これまで、わずか15歳で2009年浜松国際ピアノ・コンクール優勝して以来、11年チャイコフスキー国際コンクール第3位、14年ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクール第3位と、目覚ましい受賞歴を重ねてきた。そしてついに、スター・ピアニストとしての第一歩を踏み出す最高の栄冠を手にしたことになる。 コンクールの数週間後には、優勝者としてドイツ・グラモフォン(ユニバーサルミュージック)からコンクールのライヴ録音がリリースされた。韓国では、この録音がクラシックCDとして異例のセールスを記録し、全ジャンルをおさえてトップに輝いたという。 こうして一躍世界から熱い注目を集めるようになった俊英だが、今後も演奏家として着実な活動を続けていきたいと、冷静だ。 6歳で趣味としてピアノを習い始め、本格的に“10本の指で弾くピアノ”を始めたのは10歳のとき。その翌年、05年のショパンコンクールで優勝したラファウ・ブレハッチや、3位に入賞した韓国のイム・ドンミン、またドンヒョク兄弟の姿を見て、同コンクールに憧れるようになったのだという。 「僕は一人っ子でとてもシャイな子供だったので、一人にならないようにと楽器を習うようになりました。浜松コンクールで優勝したのは、ピアノをちゃんと始めてから5年半後のこと。急速にいろいろ勉強したのです」 11年からはパリ国立高等音楽院に留学し、ミシェル・ベロフに師事。そして15年、自身にとって特別な作曲家だというショパンの音楽を競い合うコンクールで、頂点に立ったわけだ。 「コンクールにむけて、ショパンについてのいろいろな本を読みました。例えば、フランス語で書かれている『弟子から見たショパン』。ショパンはとても厳格な先生で、少しヒステリックなところもある変わった人でした。肉体的に健康ではなく精神面には激情的なところがありましたが、とても古風な性格の持ち主だったと思います。ショパンを演奏するときには、彼の本当の内面的な精神を表現したいと考えていました」 1月には同コンクールの他の入賞者とともに来日し、全国6都市7公演のガラ・コンサートに出演する(2プログラムあり)。 ソロを演奏する公演で予定されている曲目は、ノクターン第13番、「幻想曲」、そして、コンクールでの完成度の高い演奏でポロネーズ賞を受賞することになった「英雄ポロネーズ」。 もう一方のプログラムでは、ファイナルで演奏したピアノ協奏曲第1番を、コンクールでも共演した、ヤツェク・カスプシック指揮ワルシャワ・フィルと披露する。 「ショパンが19歳のときに書いた作品です。恋をしている相手がいて、その想いが込められていることも知られています。若さにあふれ、ナイーヴであり、楽観的なところがあります。ですから、過剰にセンチメンタルに演奏されるべきではありません。純粋で輝かしいエモーションとともに演奏することを目指しています」 チョ・ソンジンは、結果発表翌日にワルシャワフィルハーモニーホールで行われたガラ・コンサートで、このピアノ協奏曲第1番とアンコールに「英雄ポロネーズ」を演奏した。協奏曲はコンクール中の演奏からさらに輝きを増し、「ポロネーズ」も彼の未来を暗示するかのような堂々たる演奏だった。 優勝の自覚がこれほどにピアニストを急速に成長させるのなら、あれから3ヵ月、ガラ・コンサート日本ツアーの頃にはさらなるステップアップを遂げているに違いない。 大きな期待と優勝者というプレッシャーを背負い、チョ・ソンジンはピアニストとして歩みを進める。コンクール中、信じられないほど緊張して手が震えたと言いながら、毎ステージ完成度の高い、気品あふれる美しいショパンを聴かせてくれた彼。その強い精神で、ピアノ界の新たな若きスターとして真摯な演奏活動を続けてくれることだろう。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です