eぶらあぼ 2016.1月号
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第15回 誰が評論を必要とするのか、への ひとつの回答「100人・100万円」 業界初の試みである。苦戦することは目に見えていた。クラウド・ファンディング(CF)を立ち上げたといっても、イケメンのバンドがライヴの資金を集めるのとは訳が違う。ダンスの、評論家の、オッサンの、取材旅行に、いったい誰が出資してくれるというのか。しかも準備が遅れて募集期間は28日しかない。なぜかパソコンのメーラーまで壊れて広報のための同報メールが送れない。Facebookは始めたばかりでよくわからねえ。ツイッターでちょっと呟くしか方法はない。オレよ、これは無理だよ。皆の善意で半分でもいったら御の字だよ(このファンドは目標額を達成しなくても受け取れる)…。もはや「挑戦することに意義がある」的な薄笑いしか浮かんでこない。 しかし驚いた。なんと2日で。もうね「え?」という間もなく達成してしまったのである! 「クラウド・ファンド開始!→なんと2日間で達成!→9日間で達成率200%突破→20日目で出資者100人突破→25日目で達成率300%突破→26日目で達成額100万円突破→28日目総額1,077,000円、359%の達成率、151名のご寄付で終了」 なんだか途中から「もはや金額じゃない!これはもう舞踊評論を必要としている人を可視化する実験だ!」とか、違う目標がどんどんできてきては、瞬く間に達成してしまうことの繰り返し。「100人・100万円」という大台をたたき出したのである。 ただもちろんこれはオレ一人に対するものではなく、評論全般に対して「必要としている人間は、ここにもいるぞ!」という意思表示である。そこが本当にうれしい。なんかね、読者の生の声に触れられたような気分で、胸の奥の肋骨の付け根あたりがジーンとしましたな。 また投資してくれた方のコメントを見ると、「フリーで活動することをあらためて考えるきっかけになった」というものから、「ダンスを応援している実感を味わえてうれしい」「共犯者のようで楽しい」「これまでツイッターなどでタダで情報をもらっていたので、そのお礼に」等々、心から楽しんで出資してくれている感じが伝わってきたのだ。これは、このCFの主旨である「評論と読者の新しい関係のために」という点でも重要なことで、本当に大きな可能性を示すことができたのではないか。 将来の若い書き手が、大いに希望を持って、そして楽しみながら、読者とダンスをつないでいく存在になっていってほしい。今回151人の出資者は、その道筋をつけてくれたのである。本当にありがとう! オレにとって、もうひとつの誤算があった。出資者へのリターン(お礼)である。「イスラエルから、乗越たかおが選んだ、できるだけ変なデザインの絵はがきが届く」というのを希望するのはせいぜい5〜6人だろうと思っていたら、42人も希望者が!みんな!オレに何を求めているのだ!?この原稿はテルアビブで書いているんだが、より変な絵葉書を求めて、ちょっと出かけてくるよ!Prileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお248
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