eぶらあぼ 2015.12月号
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音のように語る形をとります。ただし、元からある台詞に何か他のテキストを挿入したり継ぎ接ぎとはしません」 セミステージという形式で「どこまで人の動きを出せるか、飽きられないようにどう俳優を動かすか」が課題と語る三浦に、下野は「『地点』の俳優さんに劇の進行を形作ってもらえる」と全幅の信頼をおく。 三浦はまた、《フィデリオ》の最大の魅力は合唱だとし、合唱が生き生きと最後を飾れるような空間演出を目指す。 「楽譜という絶対のものがありますから、音楽の邪魔をせず、寄り添いながら、けれども演出家として少しだけ水を差したい(笑)。音楽的にはすごく重い作品ですので、どうやって軽やかに見せるかを第一に考えました。約75名の合唱隊で市民の“解放”を表現します。“解放”は祝祭的に見えるが、それと裏腹に囚人たちが幽霊のように浮遊している姿は、抜け道のない負の部分。その両方を見せることで、より祝祭的な部分を引き立てられる」 本上演では第16曲フィナーレの前にレオノーレ序曲第3番を挿入する。ウィーン国立歌劇場でマーラーが始めた習慣で、現在では賛否が分かれるところだが下野は「レオノーレ序曲第3番をフィナーレの前に演奏することで、それまでの物語を反芻できる」とその狙いを口にする。 このところ、演劇界や他ジャンルの演出家がオペラ界でも秀作を生み出している。 「映画や芝居をやってる人の音楽に対する肌の感覚というのがあって、なるほどと思うことがいっぱい。日本のオペラ界にとって歓迎すべきこと」と下野。 ロームシアター京都ではスローガンとして「京都に『劇場文化』をつくる。」を掲げる。 「ホールや京都が主体となって新たに創るというのは、これからの京都の文化の在り方の宣誓だと思う。琳派400年記念祭で盛り上がる京都も何百年かかってできた文化」と下野が語ると三浦も「オペラがもっと身近にあって、大きな劇場だけでなく、どこでも空間をともなった音楽劇が普通に行われているような状況になれば変わる」と語気を強める。下野はまた「いつかこの《フィデリオ》を再演してもいいと思う。『あの京都の《フィデリオ》観てみたいよね』となるといい」と今後に期待を寄せた。三浦 基演出Miura Motoi Prole下野竜也/1969年鹿児島生まれ。鹿児島大学教育学部音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部附属指揮教室で学ぶ。2000年第12回東京国際音楽コンクール<指揮>優勝と齋藤秀雄賞の受賞、01年第47回ブザンソン国際指揮者コンクール優勝で、一躍脚光を浴びる。07年4月より上野学園大学音楽学部教授。13年4月から読売日本交響楽団首席客演指揮者。02年出光音楽賞、渡邉曉雄音楽基金音楽賞、06年第17回新日鉄音楽賞・フレッシュアーティスト賞、07年第6回齋藤秀雄メモリアル基金賞、平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。14年4月より京都市交響楽団常任客演指揮者に就任。ロームシアター京都プロデュース・オペラ《フィデリオ》演出:三浦基 指揮:下野竜也(京都市交響楽団常任客演指揮者) 管弦楽:京都市交響楽団 合唱:京響コーラス 京都市少年合唱団レオノーレ(フィデリオ):木下美穂子 フロレスタン:小原啓楼 ドン・ピツァロ:小森輝彦 ドン・フェルナンド:黒田博 マルツェリーネ:石橋栄実 ロッコ:久保和範 ヤキーノ:小林大作 劇団「地点」:安部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、河野早紀、小林洋平 2016.1/11(月・祝)17:00 ロームシアター京都 メインホール 問 ロームシアター京都 075-746-3355 http://rohmtheatrekyoto.jp37
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