eぶらあぼ 2015.11月号
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68©石塚潤一松平 敬 バリトン・リサイタル 対話する歌12/14(月)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 AMATI 03-3560-3010 http://amati-tokyo.com松平 敬(バリトン)古典と現代、どちらも楽しんでください取材・文:宮本 明Interview 現代音楽の分野で実に多彩な活動を繰り広げるバリトン歌手・松平敬のリサイタル。ピアノで共演するのは作曲家でもある中川俊郎だが、松平にとってピアノとの共演自体が特別なことだ。 「現代音楽を中心に歌っていることもあって、歌とピアノというフォーマットでは意外に演奏していないんです。中川さんとトランペットの曽我部清典さんとの『双子座三重奏団』とか、テューバの橋本晋哉さんとの『低音デュオ』とか。だからピアノと一緒に歌うことのほうが僕にとっては新しい(笑)」 今回は、“歌+ピアノ”という編成だからこそ演奏できるロマン派の歌曲も入れた。高橋悠治、湯浅譲二、山根明季子、西村朗(委嘱初演)らの現代作品とミックスして組んだプログラムには「対話する歌」という副題が添えられている。 「いくつか対になる曲があります。たとえば歌詞がリュッケルトというつながりのシューベルトとマーラーの歌曲。どちらも好きな曲だったので、一緒に歌えば面白いんじゃないかと。ヴァレーズとストラヴィンスキーの、まったく同じ歌詞の作品も並べました。また、西村朗さんの新作と高橋悠治さんの曲はどちらも猫をテーマにしたテキスト。そんな、曲が対話しているというイメージに加えて、中川さんのピアノとの対話。その二つの対話が重要だと思ってこのタイトルを付けました」 西村作品は、一昨年の室内オペラ《バガヴァッド・ギーター》や昨年の合唱オペラ《ふり返れば猫がいて》も初演した。 「西村さんは以前に聴いてくださった僕の演奏を踏まえて作曲するので、ファルセット(裏声)が多用されていたり、いろんなチャレンジが盛り込まれていました。今回もすごくテクニカルで難しいものができてくるような気がします(笑)」 現代作品を歌うようになったのは東京芸大を出たあと、今から10年ほど前からだという。 「学部にいる間は基本を固める勉強をしていました。大学院でシェーンベルクの歌曲を研究しましたが、本格的に現代音楽を演奏するようになったのは2003年に大阪でクセナキスの《オレステイア》の全曲日本初演を歌ってからですね。それ以来、80曲ぐらいを初演しています。たぶん僕を現代ものでしか聴いていない人も多いと思うのですが、今回は、古典を歌うとこういう感じというのも聴いてもらえます。自信を持って良い歌を聴かせられる曲ばかり。古典だけ、現代だけと、聴衆の層が分断されているのはすごくもったいない。どちらも楽しんでいただける演奏会にできればと考えています」11/28(土)15:00 東京芸術大学奏楽堂 問 東京芸術大学演奏芸術センター050-5525-2300 http://www.geidai.ac.jp※シンポジウムや、関連展示の情報は上記ウェブサイトでご確認ください。没後50周年記念演奏会 信のぶとき時 潔きよし「海道東征」記念イヤーに復活する幻の大作文:江藤光紀信時 潔 1940年は神武天皇即位から数えた皇紀2600年にあたり、東京でオリンピックと万博が同時に行われることになっていた。戦争の激化でこれらの計画は流れたとはいえ、世相は奉祝ムードに包まれていた。神武天皇の東征をテーマにした信時潔(1887~1965)の代表作、交聲曲「海道東征」は、このさなかに作曲され、やまとことばの力強さを素直に引き出した日本人初の本格的カンタータ(詞・北原白秋)として盛んに演奏された。上演には約50分を要する。 戦後はほとんど再演の機会がないまま半ば幻となっていたこの曲、信時没後50年を記念して東京芸大が自筆譜にもとづき、総力を挙げて蘇演(湯浅卓雄指揮 東京芸大シンフォニーオーケストラ 他)、また関連展示やシンポジウムを行うという。信時は芸大作曲科の設立に尽力し、「海行かば」の作曲者としても知られている。今、信時を通じ私たちが改めて考えるべきは、芸術という創造的な営為が、戦争という破壊行為の礼賛へといつの間にかすり替えられてしまう、その恐ろしさだろう。信時の悩みもそこにあったに違いない。このような時代だからこそ、しっかりと受け止めたい。

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