eぶらあぼ 2015.11月号
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55トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズエリソ・ヴィルサラーゼ(ピアノ)作品の精神世界を存分に描き出す文:高坂はる香渡邊一正(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団「戴冠式」のソリストは注目の16歳文:飯尾洋一11/21(土)19:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 http://www.triphony.com第871回 サントリー定期シリーズ10/30(金)19:00 サントリーホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 http://www.tpo.or.jp エリソ・ヴィルサラーゼのピアノは、彼女が70代を迎えた今もなお、力強い輝きと生気を放っている。トビリシの音楽家一族に生まれ、ロシアの名だたる巨匠たちと直接交流した最後の世代のひとり。ロシアン・ピア二ズムの継承者として後進の指導にあたるほか、今もヨーロッパを中心に盛んな演奏活動を行う。 2014年には来日し、サンクトペテルブルク・フィルとの共演に加え、日本で11年ぶりとなるリサイタルを行った。彼女はどんな人生を歩んできた人なのだろうか、どんな経験がこの確信に満ちた音楽をもたらしたのだろうかと思わずにいられない、人間味と圧倒的な存在感のある音楽を聴かせてくれた。 今回演奏するのは、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン。モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」と第13番は子供のころくり 思わぬことから若い音楽家が抜擢されることがある。10月30日、渡邊一正指揮東京フィルのサントリー定期シリーズで、当初ソリストとして予定されていた中村紘子が病気療養のため出演できなくなった。そして、その代役として白羽の矢が立てられたのが牛田智大(ともはる)。なんと、まだ16歳である。あるいは12歳くらいから彼の活動ぶりに注目している人にとっては、「もう16歳になったの!?」という驚きのほうが先に立つのかもしれない。あどけない少年「牛田くん」のイメージを抱いている方も多いだろうが、最近の写真などを見ると、好青年といった風貌にまで成長しており、時の流れの速さを感じずにはいられない。 曲はモーツァルトのピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」。よく「モーツァルトを弾くのは子供にとっては易しく、大人にとっては難しい」などと言われるが、はたして16歳にとってのモーツァルトとは、どんな音楽なのだろうか。傑作がひしめくモーツァルトのウィー返し弾いた作品だという。年を重ねた今、そのシンプルな美しい世界を、変幻自在の軽やかな表現力を駆使してどのように構築するのか楽しみだ。また、ベートーヴェンからは、彼女のしなやかな鋼のような音がよく似合いそうな「熱情」ソナタを取り上げる。そして、最後に用意されているのが、シューマンの「謝肉祭」。長きにわたり探究を続けてきた作曲家との親密なつながりが、作品の精神世界を存分に描き出してくれるだろう。ン時代のピアノ協奏曲のなかでも、とりわけ簡潔さが感じられる作品だけに、いっそう興味をひく。 メイン・プログラムはマーラーの交響曲第1番「巨人」。指揮の渡邊一正は、1996年から2015年3月まで東京フィル ヴィルサラーゼの幅広い表現力が存分に味わえる、多彩なプログラム。作品への深い愛情と、確信に満ちた円熟のピアニズムを味わう一夜となりそうだ。指揮者を務め、この4月からは同団レジデント・コンダクターに就任している。長年にわたるオーケストラとの協働によって生み出されるサウンドというものがあるはず。指揮者とオーケストラが一体となった輝かしい演奏を期待したい。©三浦興一牛田智大 ©Ayako Yamamoto衣装提供 株式会社 オンワード樫山渡邊一正
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