eぶらあぼ 2015.11月号
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42クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)こだわりの名手が到達したシューベルトの世界文:柴田克彦スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(指揮) 読売日本交響楽団特別演奏会『究極のブルックナー』ブルックナーと対峙するマエストロの現いま在文:江藤光紀2016.1/10(日)17:00 横浜みなとみらいホール2016.1/13(水)19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp※全国公演の情報は上記ウェブサイトでご確認ください。2016.1/21(木)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール2016.1/23(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール(完売)問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp クリスチャン・ツィメルマンのリサイタルほど、濃密な時間が流れるピアノ・コンサートはほかにない。全ての音が意味を発しながら奏され、隙のない音楽が精緻・精妙・堅牢に構築されていく。畢竟聴き手は息を殺してその演奏に耳目を集中させ続けることになる。しかもそこには豊かな詩情や熱気が奇跡のように同居している。したがって聴き終えると深い充足感に満たされ、また再びその得難い時間を求めたくなる。 1956年ポーランド生まれの彼が、現代最高のピアニストの一人であるのは言うまでもない。75年ショパン・コンクール優勝、カラヤン、バーンスタインらとの共演の経歴や、自身が調整した楽器を持ち込むこだわりも、もはや記載不要だろう。彼は近年、拠点のひとつとする日本で、2009、10、12、13年のリサイタルのほか、様々なコラボを披露している。我々はその幸運をただ享受すればいいのだ。 スクロヴァチェフスキは1923年10月3日生まれだから、92歳。ブルックナー指揮者として名をはせた長老は多いが、いよいよヴァントを超えて朝比奈隆に近づいてきた。しかも凄いのは、毎年のように来日し若々しい音楽を披露している点だ。足取りもしっかりしているし、まだまだ元気な音楽を聴けそうなのは何よりである。 さて、次回の来日は来年1月で、ブルックナーの交響曲第8番を振る2公演が予定されている。『究極のブルックナー』と銘打たれているが、このところの演奏から推測するに“究極”に肉薄するのは間違いないだろう。 昨年、一昨年の来日でも第4番「ロマンティック」や第0番などを取り上げているが、毎回バランスが注意深く整えられ、腹にずしりと響きながら、透明感のあるテクスチュアで聴かせてくれた(これにはもちろん読響のアンサンブル力も大きく寄与している)。それに 毎回意味深いプログラムを用意する彼は、このほど「オール・シューベルト・プログラム」で日本ツアーを行う。演目は、7つの軽快な変奏曲、ソナタ第20番、第21番。ポーランドで発見された13歳時の“幻の変奏曲”も貴重だが、何より最晩年のソナタ2曲が大注目だ。前回弾いたベートーヴェン最後のソナタ(第30~32番)の続編として、それらとの共通性または対照性が露にされる可能性もあるし、何より、前記の特質をもつ彼が、情緒纏綿たるテンポが合理的かつ快活でダレない。「ロマンティック」のスケルツォなどは“爆速”といってもいいくらいの疾走ぶりで度肝を抜かれた。時折、テンポを大きく揺らし歌舞伎役者のような“ニラミ”をきかせるのにもハッとさせられる。あの手この手の“スクロヴァ節”が繰り出され、ファンは痺れることの連続だったのではないだろうか。 スクロヴァチェフスキは、ブルックナーの中でも最大級の規模を持つ第8番を、今年7月にリンツ・ブルックナー管抒情的ソナタにどうアプローチし、いかなる世界を創出するのか? 非常に興味をそそる。何れにせよ、かけがえのない時間を過ごせることだけは間違いない。との公演で成功させている。宇宙的規模を持つ曲だからこそ、読響との共演でも“究極”の魅力満載の演奏が期待できそうだ。©KASSKARA/DGスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ ©読売日本交響楽団

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