eぶらあぼ 2015.10月号
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8484CD『赤い靴』ナミ・レコードWWCC-7791¥2500+税9/25(金)発売上原正敏(テノール)大人がはっとするような深い味わいの“童謡”を聴いてください取材・文:東端哲也Interview リリコ・レッジェーロの甘く高音域に秀でた声を持ち、7月には東京オペラ・プロデュースによるアルファーノ《復活》公演(日本初演)のディミトリ役でも注目を集めた人気テノール、上原正敏。最新アルバム『赤い靴』は、岩河智子の編作『おとなのための童謡曲集』による意欲作。室内楽の名手・大須賀恵里がピアノを務めた。 「岩河さんの編作では、メロディはそのまま、ファンタジックに装飾されたピアノが誰もが知っている日本の童謡から新しい世界を引き出してくれる。例えるなら、実相寺昭雄監督が手掛けたウルトラシリーズのエピソードのように、子どもには少しわかりづらいけれど、大人がはっとするような深い味わいや美しさがあります」 それだけに単なる伴奏を超えたピアノ・パートが重要になるが…。 「大須賀さんは歌の伴奏経験が殆どない方でしたが、豊かな音楽性を持っているので、ぜひ演奏をお願いしたかった。最初は私たち声楽家の慣習的な歌い方を“楽譜に書いてない”と指摘されたり、なかなか刺激的なスタートでしたが、彼女のピアノが素晴らしい舞台演出の役割を果たし、それに乗っかって気持ちよく歌う事ができました」 野口雨情の詩による〈赤い靴〉や〈青い眼の人形〉では大正時代の異国情緒がドラマティックに浮かび上がる。 「少女の運命が気になる〈赤い靴〉では当時、横浜の波止場が持っていた“危うい”イメージを意識しました。岩河さんの書法の見事な点は、〈青い眼の人形〉の“わたしは言葉がわからない”をわざとピアノの拍とずらして歌わせることで、異国から来た人形の哀しみや不安な気持ちを表現しているところですね」 西条八十の詩による〈かなりや〉ではシンプルでカンツォーネのような朗々たる響きが楽しめる。 「〈かなりや〉は笑顔を忘れてしまった子どもを意味すると言われていますが、私には“歌を忘れたテノール歌手”を温かい愛情で見守るようにと訴える、とても優しい歌に聞こえます(笑)」 収録曲のほとんどが大正生まれの童謡だが、金子みすゞの詩に現代になって山崎浩が曲を付けた〈私と小鳥と鈴と〉も聴き所だ。 「山崎くんをよく知っているので、とても彼らしい素敵な曲だと思います。この歌が伝える“みんな同じでなくていい”というメッセージが今回の企画を進める上で凄く励みになりました。長く暮らしたイタリアで、私の歌うカンツォーネに聴衆が涙してくれました。これからは時代を超えた美しい童謡で、沢山の日本人の心に響く歌を歌っていきたいと思っています」10/31(土)札幌コンサートホールKitara(小)(011-520-1234)、11/1(日)魚沼市小出郷文化会館(025-792-8811)、11/2(月)11/3(火・祝)(完売)11/5(木)Hakuju Hall(03-5478-8700)、11/6(金)岡崎市シビックセンター(0564-72-5111)、11/7(土)京都府立府民ホールアルティ(エラート音楽事務所075-751-0617)、11/8(日)館林市三の丸芸術ホール(0276-74-4111)※11/2のみCLASSICプログラムエベーヌ弦楽四重奏団ジャンルを超越する新世代クァルテット文:渡辺謙太郎©Julien Mignot クラシック、ジャズ、ポップス、タンゴ、映画音楽、コンテンポラリー…。あらゆるジャンルの音楽を柔軟に奏でるエベーヌ弦楽四重奏団は、いつも室内楽の楽しさと奥深さを教えてくれる。 今秋に行う、2年ぶりの来日公演では、『CLASSIC』と『CLASSIC+JAZZ』の2プログラムを用意。彼らの魅力と真価を伝える選曲が楽しめる。前者は、ハイドンの第32番とベートーヴェンの第14番の間に彼らの母国の鬼才・デュティユーの色彩豊かな傑作「夜はかくの如し」を配置。後者は、前半にモーツァルト「ディヴェルティメント ヘ長調K138」とベートーヴェンの第15番を演奏し、後半ではコルトレーン、ピアソラ、ビートルズなどの名曲を室内楽の語法で新たな音楽として再構築する。どちらのプログラムも楽しみだ。また、今回は2015年から新メンバーとして加入したアドリアン・ボワソー(ヴィオラ)の日本お披露目も兼ねた重要な公演。2012年の東京国際ヴィオラコンクールで特別賞を受賞した若き実力派の妙技にも注目だ。
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