eぶらあぼ 2015.10月号
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62パルティトゥーラ・プロジェクト ベートーヴェン ピアノ協奏曲全曲演奏会競争ではなく共存を目指す新たな潮流文:柴田克彦都響 × スウェーデン放送合唱団至高の合唱と雄弁な管弦楽の至福の融合文:柴田克彦10/27(火) ピアノ協奏曲第1番~第3番10/29(木) ロマンス第1番・第2番、ピアノ協奏曲第4番・第5番「皇帝」各日19:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 https://www.triphony.com東京都交響楽団 第795回・第796回 定期演奏会10/15(木)19:00 東京文化会館10/16(金)19:00 サントリーホール(完売)問 都響ガイド03-3822-0727 http://www.tmso.or.jp 1つの楽曲を様々な演奏で紹介する、意義深い企画を推進してきたのがすみだトリフォニーホールだ。「ゴルトベルク変奏曲」の成果も光るが、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲にも力を注ぎ、これまでにゲルバー、ダン・タイ・ソンなど複数の奏者が名演を披露した。そしてこの10月にも全5曲の公演が開催される。だが今回は、異なる視点による注目の演奏会となる。 題して『パルティトゥーラ・プロジェクト』。パルティトゥーラとは、楽譜や総譜を意味する。これは、真摯かつ生命力豊かな現代屈指のピアニストであるマリア・ジョアン・ピリスが教鞭をとるベルギーのエリザベート王妃音楽大学が、彼女の信念に共感して立ち上げたプロジェクト。「様々な世代のアーティストをつなぎ、自己の利益だけを求めるのではなく、他者との共存や分かち合いを目指す」を旨に、世界各地で公演を行っている。 ピリス自身と彼女が見出した俊英たちがステージを共にするのが具体的内 1996年、皆が驚いた。それはアバド指揮ベルリン・フィル来日公演の「復活」と「第九」におけるスウェーデン放送合唱団の歌声。無類の透明感、人数に比例しない信じ難い大迫力、そして精緻にして広大な表現力は、本物の合唱が何たるかを強烈に実感させた。以来約20年、彼らは再三来日し、世界最高峰の名唱を聴かせてきた。そしてこの10月、都響の定期演奏会に登場する。しかも一部参加ではなく、全曲でフィーチャーされる。柔軟な発想が際立つ都響ならではの、大英断プログラムといえるだろう。 1925年に創設された同合唱団は、“合唱の神様”エリクソンによって世界一の技量を、名匠カリユステによって幅広い名声を獲得した。今回の指揮者は、両者の薫陶を受けたペーター・ダイクストラ。2007年から首席指揮者を務める彼は、バイエルン放送響やベルリン・ドイツ響などへの客演でも評容。今回は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲5曲のソロを振り分けて演奏する。まずピリスが弾くのは第3番と第4番。昨年発売されたCDの演目でもある両曲は、彼女の今を知るにも相応しい。第1番は1987年ベルギー生まれのジュリアン・リベール、第2番は88年フランス生まれのナタナエル・グーアン、そして第5番「皇帝」は95年横浜生まれ価が高く、“都響の定期”を振るにこの上ないマエストロだ。 演目がまた凄い。何と1曲目は“無伴奏合唱曲”のリゲティ「ルクス・エテルナ(永遠の光)」。16部(!)混声合唱という驚異の傑作で、まずは繊細極まりない声のポリフォニーを味わえる。次のシェーンベルク初期の「地には平和を」は、すこぶる美しく感動必至の名品。の小林海都と、何れもエリザベートでピリスに師事する有望株が担当。中でも内外の著名楽団と数多く共演している小林への期待は大きい。バックはピリスの盟友オーギュスタン・デュメイが指揮する新日本フィルゆえに万全。甘美な「ロマンス」でデュメイのヴァイオリンが聴けるのも嬉しい。我々はここで、ピアノ界の現在と未来を感知しよう。合唱の公演では無伴奏で歌われる同曲を、管弦楽付きの版で聴く貴重な機会でもある。後半のモーツァルト「レクイエム」は、もう説明不要。立体的なサウンドや劇的な表現力で唸らせる今の都響と、あの雄弁な合唱が合体した歴史的「モツレク」に浸れば、それで充分だ。 オーケストラ・ファンも合唱ファンも、文句なしに必聴!左より:オーギュスタン・デュメイ©Photo ELIAS/マリア・ジョアン・ピリス©K.Miuiraジュリアン・リベール©D-artagnan/ナタナエル・グーアン©Caroline Doutre/小林海都スウェーデン放送合唱団 ©Arne Hyckenbergペーター・ダイクストラ ©Astrid Ackermann
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