eぶらあぼ 2015.10月号
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54垣岡敦子ソプラノ・リサイタル ~Amore 愛の歌 Vol.3~10/16(金)19:00 紀尾井ホール問 チケットスペース03-3234-9999 http://www.ints.co.jp垣岡敦子(ソプラノ)様々な愛のかたちを歌います取材・文:東端哲也Interview 2009年にイタリアより帰国し、近年はソロ活動に加えてオッフェンバック《ロビンソン・クルーソー》やレスピーギ《ラ・フィアンマ》など日本初演オペラで主役を務め、好評を博してきたソプラノの垣岡敦子。今年の7月にも同じ東京オペラ・プロデュースによる、トルストイ原作のアルファーノ《復活》でヒロインのカチューシャを演じ、絶賛を浴びたばかりだ。 「この役は、道ならぬ恋で家を追われ、身籠もった子どもを失い、娼婦に身を堕とし、無実の罪で刑務所送りになる、怒濤の展開のヒロインで、声も演技も高いレベルで要求される難役。最初お話しを頂いた時、正直私の声には重いかと思ったのですが、譜面を見ながら通しで歌っているうちにどんどん役にのめり込んでしまいました。男の身勝手さや女の強さが浮き彫りの、甘い恋愛物語とは真逆の作品でしたが、オペラ歌手として得たものは大きかったと思います」 そんな彼女が“愛”をテーマに名曲を歌い上げる企画リサイタルを10月に行う。この「Amoreシリーズ」も今年で3回目。ソプラノの王道である叙情的で重みのあるリリコ・プーロの声を活かし、華やかなグノー〈宝石の歌〉からドラマティックなプッチーニ〈ある晴れた日に〉まで幅広い役柄をカヴァー。様々な愛のかたちを紡ぎ出す。 「オペラにおける“愛”は憎しみや欲望と表裏一体となって究極のドラマを生む原動力で、確かに歌の内容は少し込み入っているかもしれないけれど音楽はとても美しい。私の歌声で皆さんがロマンティックな気持ちになったり、癒やしを感じて、『ああオペラってこんなに聴きやすいものなんだ』って思ってもらえたら嬉しいです」 今年はドイツ歌曲にも挑戦。〈明日の朝〉はR.シュトラウスが愛し合うふたりの世界を繊細に描いた佳曲だ。 「いつも涙がこぼれそうになる曲です。まだまだ勉強が必要ですが、これをきっかけにドイツ歌曲の扉を開けることができたらいいですね。今回はマスネの〈アヴェ・マリア〉(タイスの瞑想曲)のような珍しい曲もあるし、結構盛り沢山。あれもこれも歌いたいと加えていくうちにどんどん曲目リストが増えるので、スタッフにたしなめられています。でもプログラムを考えるのって本当に楽しい。どこにサプライズを入れようかなとか…」 大らかでサービス精神旺盛なところも魅力のひとつ。楽曲説明などMCの楽しさにも定評がある。「若い世代など初心者の方も楽しめるステージにしたいから、ついつい喋り過ぎてしまう…関西人ですから(笑)」11/14(土)16:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jpクリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン) バッハ無伴奏を弾くソナタ&パルティータ全曲演奏会バッハの響きの宇宙を体感文:寺西 肇©Giorgia Bertazzi 今や、人気・実力ともに“最高峰のヴァイオリニストの一人”と言い切ってもいいだろう。それだけではない。作品への深い洞察やイマジネーションの豊かさにおいても、もはや他の追随を許さない。クリスティアン・テツラフが、ヴァイオリニストにとっての聖典とも言うべき、バッハの無伴奏ヴァイオリンのための6つのソナタとパルティータに、一夜にして挑む。全6曲の上演を「とてつもなく素晴らしい“旅”であり、暗闇から光へと向かう感情の旅」と例えるテツラフ。これまでに2度の録音を行い、世界各地でこの作品の演奏に取り組み、特に4年前のライプツィヒ・バッハ音楽祭では、作曲者ゆかりの聖トーマス教会で、覇気溢れる名演を紡ぎ上げた。「音楽を通して語る際に、以前よりも、ずっと多くの自由を得た」と語る一方、「私がすべての作品に、作品特有の感情を与えるのであって、自分自身を投入するのではない」とストイックな態度を貫く名手。その響きの宇宙を、ぜひとも体感してみたい。

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