eぶらあぼ 2015.10月号
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52サントリー芸術財団コンサート 作曲家の個展2015 原田敬子ヴェールを脱ぐ原田敬子の“いま”文:江藤光紀ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団若き感性が生み出す清新なマーラー文:柴田克彦10/27(火)19:00 サントリーホール※18:20より原田敬子によるプレコンサート・トークあり問 東京コンサーツ03-3226-9755 http://www.tokyo-concerts.co.jp第675回 東京定期演奏会11/6(金)19:00、11/7(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp 日本には中堅から若手まで優れた作曲家がたくさんいるのに、彼らの管弦楽の新作を聴く機会がずいぶんと減ってしまっている。危惧すべき事態である。その“いま、聴きたい作曲家”の筆頭が原田敬子だろう。演奏家の身体性にまで切り込む鋭い感性で、同世代の中でも頭一つ抜けた才能を感じさせた。2000年代まで大作を精力的に発表していたのだが、近年は小編成の作品や他分野とのコラボ作品が多いようだ。 と思ったら、今年のサントリー芸術財団の『作曲家の個展』が原田敬子特集ではないか。これは嬉しい。しかも上演4曲のうち、2曲が世界初演作。愛好家の渇望を癒す企画である。 前半の2曲、芥川作曲賞受賞作で3人のソリストがオーケストラと対峙する「響きあう隔たりⅢ」(2000~01)と、その受賞記念委嘱作として書かれた「第3の聴こえない耳Ⅲ」(03)では、演奏行為そのものを創造的に構築する若き原田のスタイ 耳を洗うような「大地の歌」への期待に胸が高鳴る。これまで交響曲第1・3・5・6・7番が披露されたインキネン&日本フィルの『マーラー撰集』。来る11月は、交響曲と歌曲の醍醐味を兼ね備えたこの曲が登場する。 当シリーズは、シベリウスのレア作品との組み合わせも妙味。今回は「歴史的情景 第1番」と組曲「ベルシャザールの饗宴」が耳を楽しませる。前者は「フィンランディア(の原曲)」を含んでいた愛国的作品からの抜粋で、後者は北欧の抒情と異国趣味が混じった珍しい音楽。何れも親しみやすい上、地元出身のインキネンとその演奏の伝統息づく日本フィルが奏でるシベリウスは、まさしく真髄と呼べるだけに、魅力を満喫できること必至だ。 そしてインキネンは、混沌や絶叫とは一線を画す新たなマーラー像を描いてきた。それは、緻密に構築された楽節が確固たる歩みで運ばれ、複雑な構成が見通しよく解明されながら、熱気ルが感じ取れるはずだ。13年から2年越しで取り組んでいるピアノ協奏曲、そして今回の演奏会のために委嘱された作品で、原田の“いま”がヴェールを脱ぐ。 ドイツの現代音楽演奏集団アンサンブル・モデルンから、今回のために7名の奏者が来日。彼らはすでに原田作品を手掛けている手練れたちだ。中川やテンションも充分な表現。その解釈は回を追うごとに説得力を増している。となれば、厭世感と清澄さが同居した独特の曲想をもち、歌の付いた6楽章の構成が難儀な「大地の歌」では、これまで以上に清新な感性溢れる名演が期待される。しかも今回は、アルトではなくバリトンを起用。イタリア在住の実賢一指揮桐朋学園オーケストラをバックに、原田の最新CD『F.フラグメンツ』でスリリングな競演をみせたシュテファン・フッソング(アコーディオン)と廻由美子(ピアノ)、さらに稲垣聡(プリペアド・ピアノ)、加藤訓子(打楽器)といったスペシャリストが顔を揃え、通常の4倍のリハーサルを行って臨む。力者・西村悟(テノール)、マーラー歌曲の第一人者・河野克典(バリトン)とソロも文句なしだ。 インキネン&日本フィルは、このところ一体感をグンと強めている。来年秋の首席指揮者就任に向けて、今回はいっそう強固なコンビネーションで魅せるに違いない。中川賢一 ©Shuhei NEZU西村 悟 ©Yoshinobu Fukaya(aura)河野克典ピエタリ・インキネン ©山口 敦廻由美子原田敬子 ©Andreas Hussong

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