eぶらあぼ 2015.10月号
49/253
46三ツ橋敬子(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団ここでしか味わえないマル秘イタリア・メニュー文:柴田克彦ミハイル・プレトニョフ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団リムスキー=コルサコフ:歌劇《不死身のカッシェイ》演奏会形式プレトニョフの指揮で聴くロシアの隠れた傑作オペラ文:江藤光紀第43回 ティアラこうとう定期演奏会10/17(土)14:00 ティアラこうとう問 東京シティ・フィルチケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp10/9(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 http://www.tpo.or.jp オペラの大家によるオペラ以外の作品だけを聴く。この興味深いプログラムが、三ツ橋敬子指揮による東京シティ・フィルのティアラこうとう定期で実現する。曲は、プッチーニとヴェルディの弦楽四重奏曲の弦楽合奏版にプッチーニの「グローリア・ミサ」。イタリアのペドロッティ国際指揮者コンクールで優勝、トスカニーニ国際指揮者コンクールで準優勝後、ヴェネツィアに暮らす三ツ橋ならではの選曲であり、また以前話を聞いた際に「声楽曲や演奏される機会の少ない作品も取り上げたい」と語っていた彼女の意欲が反映された演目でもある。 まずプッチーニの「菊」。これは主題が《マノン・レスコー》に転用された切なく美しい弦楽四重奏曲で、“プッチーニ節”が存分に味わえる。ヴェルディの弦楽四重奏曲は、対位法やフーガが駆使されたシリアスな作品。オペラの巨匠の意外な一面を知ることができ リムスキー=コルサコフが歌劇の大家だったという事実は、日本ではほとんど知られていないのではなかろうか。生涯に15作品も書いているのだから立派だが、「熊蜂の飛行」や《サトコ》のアリア、《金鶏》や《見えざる都市キーテジと聖女フェヴローニャの物語》の組曲版が時折プログラムを彩る程度で、オペラ全曲上演の機会などは滅多にない。 今年4月から東京フィルの特別客演指揮者に就任したプレトニョフが、就任後初めて壇上に立つ。その演目がR=コルサコフのオペラ《不死身のカッシェイ》(演奏会形式)だ。プレトニョフはこれまでにも、グラズノフやスクリャービンの珍しい作品を上演しており、ロシア音楽の豊かさを伝えることに積極的だった。オペラ指揮者としてもボリショイ歌劇場来日公演の《スペードの女王》で、実力は証明済み。 カッシェイとはロシア民話にたびたびる。そしてプッチーニ22歳時の作「グローリア・ミサ」は、本人が演奏を禁じた「幻のミサ曲」。40分を超える大作だが、抒情的な「キリエ」、輝かしい「グローリア」、劇的な「クレド」、厳かな「サンクトゥス&ベネディクトゥス」と続くメロディアスな音楽で、後のオペラに至る要素が随所に盛り込まれている。 衒いのない表現の中に濃密な表情登場する悪役キャラクターで、ストラヴィンスキーの「火の鳥」でおなじみだろう。両者はストーリーは異なるが、囚われた王女の解放という点で似ており、初演年も近い(《カッシェイ》1902年、「火の鳥」1910年)。「火の鳥」は師匠R=コルサコフに捧げられており、実際《カッシェイ》の濃厚なオーケストレーションは所々「火の鳥」を連想させる。ここには師弟間に流れる知られざる水脈があるのかもしれない。 プレトニョフは来日直前、自ら率いるロシア・ナショナル管でも《カッシェイ》と引き締まったカンタービレが宿る三ツ橋の指揮と、充実顕著なシティ・フィルの演奏に加えて、イタリア留学の経験をもち、現在はオペラで活躍する与儀巧(テノール)、与那城敬(バリトン)のソロ、ミサ曲に実績ある東京シティ・フィル・コーアの合唱も心強い。ここは皆こぞって、イタリア秘曲の美味を体験しよう!を上演する(こちらは「火の鳥」と抱き合わせたプログラム)。東京公演にもその主要歌手が参加、さらに東京フィルが日頃から共演する新国立劇場合唱団が加勢する。盤石の布陣だ。与儀 巧ミハイル・プレトニョフ ©上野隆文与那城 敬 ©Kei Uesugi三ツ橋敬子 ©Walter Garosi
元のページ