eぶらあぼ 2015.10月号
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クープラン一族の音楽が醸す高貴な薫り取材・文:オヤマダアツシ 写真:中村風詩人 ドイツの「バッハ一族」と並び、フランス音楽史において重要なのが「クープラン一族」である。J.S.バッハと同時代を生きたフランソワ・クープランは良く知られているが、その他にも個性的で才能豊かな作曲家を輩出している。2010年から14年にかけ、上野学園エオリアンホールでフランソワとラモーの全クラヴサン(チェンバロ)作品を演奏した曽根麻矢子が、クープラン一族の音楽をさらに深く追究する企画を生み出した。 12月に、Hakuju Hallの『ワンダフル one アワー』というシリーズで行われる『クープラン一族の世界 今蘇る王宮の香り』という1時間のコンサートでは、フランソワと17世紀中盤に活躍したルイ・クープラン、さらにはハイドンやモーツァルトらと同時代を生きたアルマン=ルイ・クープランという3人の曲を並べる。曽根にとっても、初めての試みだ。 「今までルイの曲を弾く機会が少なかった理由の一つに、フランソワ同様、大きなホールには向いていないということがあります。親密な空間で演奏すべき音楽だからです。フランソワの方は興味を惹くタイトルが付いているのでプログラムに入れることが許されましたが、有名な曲を求められる演奏会には、ルイはなかなか入れられなかったのです。私自身もこうしたプログラムは初めてですし、特にアルマン=ルイの曲は弾くこと自体が珍しいですから、この機会に3人並べてみました。リュートの書法から影響を受けてチェンバロ曲のスタイルが確立された時代に惜しくも若くして亡くなった天才ルイ、詩的でミステリアスでクラヴサンの真髄を聴かせてくれるフランソワ、新しい時代の予感を運ぶアルマン=ルイ、それぞれの音楽が異なる音の響きをもっていますので、時代の移り変わりも含めて、聴きながら比較して楽しんでいただければと思います」 録音では比較的充実しているものの、コンサートではなかなか聴けない(と言ってしまっていいと思える)フランソワ・クープランの作品だが、全12回の全曲コンサートを経験したからこそわかる魅力があるのではないだろうか。 「チェンバロという楽器の魅力は、フランス音楽によって最大限に引き出せると思っています。特にフランソワ・クープランは、チェンバロ奏者自身が最もチェンバロの音に酔える曲です。その魔法の世界にお客様を導くという、聴衆へのサービス精神がない音楽かもしれません。でも、奏者だけに与えられる喜びが膨らむとしても、その音楽の美しさをお裾分けしたいし、聴く人にも感じとっていただけたら嬉しいです。ルイ・クープランは、近年パリで師匠にレッスンを受けた刺激が強烈で、多彩な感情表現に魅力を感じます。それでもなお、フランスの貴族の節度と優雅さからは外れないところが気持ち良さでもあります。舞曲的なリズム感も弾いていておもしろいです。最近、長いことパリのチェンバリストに預けていた楽器を日本へ呼び寄せました。今回の演奏会が、新しいパートナーのお披露目となることが光栄です。Hakuju Hallでどう響くのか、私自身も楽しみで仕方ありません」 その楽器(写真)は、1740年代に作られたフランス製の楽器をベースに、曽根の信頼を得ているデイヴィッド・レイが彼女のために製作したもの。楽器全体に描かれたロココ風のしゃれた絵画が印象的であり、Hakuju Hallでのコンサートが日本での初披露となる予定だ。「ワインが年月をかけて熟成されるように、演奏者が楽器の音を育てていき、自分の音を作っていく楽しみがあります」というから、12月のコンサートでは(曽根の)新しい相棒の新鮮な音が味わえるだろう。Prole実力、人気ともに日本を代表するチェンバロ奏者。1986年ブルージュ国際チェンバロ・コンクールに入賞後、故スコット・ロスに指導を受ける。2003年から6年間12回にわたるJ.S.バッハ連続演奏会が注目を集め、10年から14年にも全12回のクープランとラモーのチェンバロ作品の全曲演奏会を行い、好評を博した。エイベックス・クラシックスよりCDを多数リリース。11年よりスタートした「チェンバロ・フェスティバル in 東京」音楽監督。 上野学園大学教授。Informationワンダフル one アワー 第18回曽根麻矢子 チェンバロ・リサイタルクープラン一族の世界 今蘇る王宮の香り12/2(水)15:00 19:30 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700https://www.hakujuhall.jp37
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