eぶらあぼ 2015.10月号
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第12回「次のダンス」は、もうとっくに始まっている この夏は、ふたつの特筆すべきことがあった。 ひとつは「世界の哲学・芸術文化アカデミー」という、埼玉県教育局と彩の国さいたま芸術劇場との連携企画である。将来を担う人材育成のため、選ばれた高校生に芸術を学ばせる特別講義をしてきたのだ。こういうプログラムにダンスを組み込むとは、良いセンスをしているじゃないか埼玉県! しかも今回オレは、講義のみならず身体を動かすワークショップも一緒にやったのである。「午前中に講義をしていた評論家が、午後にはジャージに着替えて一緒に柔軟体操をする」という、オレ以外ではちょっとできまいという光景。座学の内容を身をもって体験するのは、なかなか画期的なことなんで、他県でもぜひ展開していきたい。 今回受講した生徒たちはダンス経験者、観る専門のファンなど多様で、バランスも良かった。しかも皆じつに聡い。そして一様に、「『決まったステップを覚えるのがダンス』だと思っていたけど、そうじゃないダンスがたくさんあって驚いた」という。そうなのだ。ダンスがもっと楽しく自由だということを知ると、人生はグッと豊かになるよ。 さてもうひとつはソウル。オレが顧問をしている、そして名付け親でもある「NDA(ニューダンス・フォー・アジア)フェスティバル」である。芸術監督は現役のダンサー・振付家でもあるユ・ホシク。彼が私財を投じ「若くて才能のあるダンサーや振付家のためのフェスティバル」を始めたのが3年前のことだ。オレは「どうせ始めるなら、自国のことだけ考えていてはダメだ。広くアジアのダンスのためのフェスを目指せ」と提言したところ意気に感じて頑張ってくれている。今回はオレに石彫りの立派な感謝プレートまで贈ってくれ、ジーンとした。 NDAでは韓国以外にも、シンガポール、ポーランド、アメリカ、中国と多くの参加があった。日本からはオレがアドバイザーをしている福岡フリンジと北海道ダンスプロジェクトに加え、東京のセッションハウスからの選出者が参加。面白いのはアメリカで、なんとデトロイトのカンパニーがきていたのだ。自動車産業衰退の象徴のように語られる街である。しかし近年は自動車産業以外の「文化で町おこし」を狙っているという。そこへ「過酷なニューヨークを離れて安定した制作環境を求めるアーティスト」が出会い、フェスティバルまで立ち上げた。今回のダンスもけっこう面白いのである。じつはテキサス州も同様で、これまで「アート不毛の地」のように言われていた土地が、ジワジワとアートで盛り返してきているのだ。 このように多くの国と都市で「小さいけれども切れ味の鋭いフェス」を、現役のダンサー・振付家が立ち上げている。日本の各都市でも同様のフェスをどんどん作り、東京などを経由しないで世界中とダイレクトにつながっていったらいいのだ。「コンテンポラリー・ダンスをもう一度活気づけよう」などというヤツらは放っておけ。「次のダンス」は、もうとっくに始まっている。出会う努力をする者同士を、繋ぐ役目をオレはするよ。Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお311
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