eぶらあぼ 2015.10月号
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302 あまりにも奇抜・あまりにも独特なスタイルで、コンテンポラリー・ダンス草創期から我が道を行っているカナダのマリー・シュイナールが、3つの作品をもって久しぶりに来日する。熱狂的なファンも多い彼女に、メールでインタビューした。 第一の演目は『春の祭典』だ。約100年前にニジンスキーが振り付けて以来、多くの振付家が挑戦し、様々なアプローチがなされてきた。今回彼女はこの作品にどう挑んだのだろうか。 「私の場合、ニジンスキー版の『生け贄』の物語にこだわることなく、あくまでもストラヴィンスキーの曲に対する音楽的な視点を基本にすえてアプローチしました。そこで『春の祭典』の楽譜を、最初の版から最後の版まで年代順に辿って、徹底的に研究したんですよ。そしてダンサーの身体を、大空と大地をつなぐ力、『振動する垂直方向の力』として表現しています。ダンサーは、天地の間を音楽が通り抜けていくためのアンテナのような存在です」 ストラヴィンスキーの曲は、ロシアのぶ厚い雪の下で芽吹く生命のように強烈な魅力に満ちている。そしてシュイナールのダンスもまた並外れた力強さをもつ。個性と個性がぶつかり合うこの作品、創作は順調に進んだのだろうか。 「はい。とても順調でしたし、力強く喜びに満ちていた、とさえいえますね!」 チラシや広告等で目にする写真からもわかるが、彼女の『春の祭典』は美術や衣裳も独特で、まさにヘンテコな生物みたいな者どもが蠢く…。かつて見たことのないような『春の祭典』が出現する。 さて次なる演目が『アンリ・ミショーのムーヴマン』。これは詩人で画家のアンリ・ミショーの『ムーヴマン(動き)』というタイトルの画集・詩集をモティーフにした作品である。動きの一瞬を切り取ったようなミショーの絵を背景に、ちょっとストイックで目を離せないダンスが繰り広げられる。 「初めてこの本を見たとき、『これは私のために描かれた本だわ!』と確信しましたね(笑)。私の振付は、ミショーの絵に絶対的な忠実を誓っています。つまりミショーが描いた身体を、できるだけ正確にダンサーたちで表現しているのです。私が最も信頼し、1997年から協働している作曲家のルイ・デュフォーに、この作品のための音楽を依頼しました。素晴らしい一体感のある舞台だと思います」 「動き」というタイトルの画集…ということは、ミショーはこの本で“ダンスの記録”をしたかったのだろうか。 「私は違うと思います。アンリ・ミショーはまさに“動きそのもの”を描いたのです。記録でもなく、もちろん振付家のための舞踊譜でもなくね」 この作品は非常に緊密な空間の中にシュイナールの動きが凝縮されている。まさにミショーとの真剣勝負という感じで、じつにスリリングなのである。 この2つは、このところダンスに本腰を入れているKAAT神奈川芸術劇場、そして高知県立美術館ホールと金沢市文化ホールで公演される。高知県立美術館と金沢21世紀美術館ではさらにもう一つの公演がある。その名もズバリ『イン・ミュージアム』。なんとシュイナール本人が、観客からのリクエストに即興で応え続けるガチンコ勝負の3時間。美術館の展示室やフリースペースで行われる出入自由の無料公演だ。じつはシュイナールは、カンパニー作品よりもまず優れたソロダンスの数々で評価された人なのだ。 「私はソロを、個人的・直接的・神秘的な、神や宇宙との絆だと考えています。それは同時に、この公演を観に来て、私に話しかけてくれる観客一人ひとりとの個人的な絆でもあります。3時間を長いと感じるかもしれませんが、この形式で特別なダンスを作るためには、どうしても必要な長さなのです。観客の皆さんには、様々な問いかけに対する私の答え(ダンス)の目撃者になっていただきたいと思います」 最後に、日本のファンにメッセージをもらった。 「日本に来ることは、いつも私の人生における素晴らしい特別な体験です。私は皆さんの“娘か妹”のような気がしてなりません。それほど尊敬と称賛の気持ちで一杯なのです。ですから、日本を離れるとき、私はいつも涙を流しているんですよ」 アツい!アツいな!コンテンポラリー・ダンスはヨーロッパだけじゃない。無条件に楽しいダンスが、キミを待ってるぞ!私はソロを神や宇宙との絆だと考えています取材・文:乗越たかおマリー・シュイナール Marie Chouinard/振付家・ダンサー

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