eぶらあぼ 2015.9月号
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63第235回 神戸松蔭チャペルコンサート9/19(土)15:00 神戸松蔭女子学院大学チャペル第114回 定期演奏会9/26(土)15:00 東京オペラシティ コンサートホール問 バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター03-5301-0950 http://bach.co.jp他公演9/20(日)三井住友海上しらかわホール(BCJチケットセンター03-5301-0950)ル》からバッハまで歌いこなす実力派スターでもある。透明感をたたえたなかにも温かみがにじむ声は、人間バッハの素顔が垣間見える「農民カンタータ」にはうってつけ。BCJでおなじみのこちらも実力派若手バス、ドミニク・ヴェルナーと、丁々発止のやりとりを楽しませてくれることだろう。イタリア語による2曲の独唱カンタータでは、それぞれの美声をじっくり味わえるのも魅力的だ。下野竜也(指揮) 読売日本交響楽団29年ぶりに鳴り響くアダムズの大作文:江藤光紀バッハ・コレギウム・ジャパン J.S.バッハ:世俗カンタータ・シリーズ vol.6魅惑の歌姫が魅せる人間味あふれるバッハの音楽文:加藤浩子第552回 定期演奏会10/13(火)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp 「この人が振る“現代もの”なら絶対楽しめるはず!」という安心感が、最近の下野竜也には定着してきた。支持を得ている理由の一つに、独自の審美眼に基づく選曲力があることは間違いない。はやりの曲や作曲家を追いかけるのではなく、完成度は高いのに知名度がなく埋もれている曲、吹奏楽などで人気の出そうな作風などにうまくスポットを当てる。曲として面白いかどうかを最優先しているから、お客さんが「また聴きたい!」となるのである。 さて、読響10月定期のプログラムのメインは、ミニマリズムから出発しオペラでもヒットを連発する大家となったジョン・アダムズの「ハルモニーレーレ」だ。熟達した管弦楽の扱いによって、一定のパルスの上にめくるめくダイナミズムを開陳するこの大曲、開館直後 「バッハ」と「オペラ」。およそ関係がないように思われるこの両者が、かぎりなく接近しているジャンルがある。「世俗カンタータ」と呼ばれる分野がそれ。コーヒー好きの娘とそれをやめさせようとする父親のコミカルなやりとりを描いた「コーヒー・カンタータ」BWV211はその代表格だが、「農民カンタータ」BWV212も傑作だ。新しい殿様の着任祝いに部下の徴税官が詞を書いて献呈したこの作品は、村の男女が殿様夫妻の徳を褒め称えつつ戯れ合うというユーモラスな内容で、方言丸出しのセリフや流行りの俗謡、弾むような舞曲のリズムがちりばめられた楽しい1曲。峻厳な「マタイ受難曲」と同じ作者の作品とは信じがたいが、なんと作詞者の徴税官ピカンダーは、「マタイ」の詞も書いている。バッハとピカンダーのほくそ笑む顔が目に見えるようだ。 今回のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)による公演は、世界を席巻する歌姫、モイツァ・エルトマンをゲストに迎える豪華版。ドイツが生んだクール・ビューティのソプラノは、超難役の《ルのサントリーホールで日本初演されたが、それ以来の再演となる。 下野が読響と組んで名曲・珍曲を継続的に紹介してきたヒンデミットからは、ヴィオラ協奏曲「白鳥を焼く男」が演奏される。ヴィオラの名手でもあったヒンデミットだが、この曲ではヴィオラは吟遊詩人に見立てられ、各地の民謡(タイトルも民謡名から来ている)を披露する。独奏を務めるのは、読響の強力首席奏者陣の一角を担う鈴木康浩だ。 プログラム冒頭のベートーヴェン「コリオラン序曲」も、下野流のひねりか? ドイツ器楽音楽は、ナチに追われ新大陸へとわたったヒンデミットを通じ、アダムズ(ハルモニーレーレはドイツ語で“和声学”を意味する)に受け継がれた——そんな筋書きを妄想するもまたよかろう。下野竜也 ©読売日本交響楽団ドミニク・ヴェルナー©Dorothea Heise鈴木雅明©Marco Borggreveモイツァ・エルトマンPhoto:Felix Broede
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