eぶらあぼ 2015.9月号
57/207

54高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団秘められた心の叫びを聞く文:オヤマダアツシ第292回 定期演奏会10/3(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィルチケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp 深く、ときに激しくもあるハ短調の響きが聴き手の心を揺さぶる、モーツァルトのピアノ協奏曲第24番。抑圧からの解放か、独裁者への恨み節なのか、それとも…と、聴くたびに作曲者の真意を考えてしまうショスタコーヴィチの交響曲第10番。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の10月定期演奏会は、聴き手の心に衝撃を与える一夜となる。 伊藤恵がソリストとして登場するピアノ協奏曲第24番は、華麗でピアニスティックな面ばかりではないモーツァルトの深淵を味わえる秀作。悲哀や不安感が音楽となってホールに満ちあふれ、ほんの少しの希望が見え隠れしながらもドラマティックな物語を提示してくれるような作品だ。モーツァルトだからといって幸せだったり癒やされたりばかりじゃない…と、本人が教えてくれるような音楽を、シューマンなど陰のある音楽も得意とする伊藤がどのように深掘りし、演奏してくれるのかが楽しみだ。 ショスタコーヴィチが1953年に発表した交響曲第10番は、全4楽章で約50分を要する力作。国の権力者だったヨシフ・スターリンの死後、その“ご機嫌”に翻弄され続けてきたショスタコーヴィチが自らの叫びを上げたとも言われる問題作だが、高関健はこの作品へどういった方向から取り組むのかが気になる。何度もこの曲は聴いたという方には新しい視点を、初めて聴くという方には衝撃的なほどの存在感を与えてくれるだろう。伊藤 恵 ©武藤 章高関 健 ©Masahide Satoアレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団緻密な猛将が、問題作を解き明かす文:柴田克彦第674回 東京定期演奏会10/23(金)19:00、10/24(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp 断言していい。ラザレフ&日本フィルのショスタコーヴィチ・シリーズは必聴だ。昨年来演奏された交響曲第7・4・11・8番は、全て渾身の名演。それは豪快な熱演にとどまらず、精緻なバランス、的確なフレージング、等しく緊張感を保った弱音と強音…といった配慮の中に、存命中の作曲者を知るラザレフの共感が込められた、他では聴けないショスタコーヴィチ演奏だった。そして次のシーズンは、大作路線から一転、比較的ライトな第9・6・15番が披露されるので、新たな期待に胸が踊る。 最初を飾る10月は第9番。大戦が終結した年に、誰もがベートーヴェンの「第九」のような記念碑的大作を思い描いていた中で発表された、軽妙洒脱なディヴェルティメント風交響曲である。国家や民衆の期待を嘲笑うかのようなこの問題作についてラザレフは、「『確かに戦争は終わった。だがこれからどんないいことがあるのか?』、『明るい色彩の絵を描いた。しかし終楽章でその絵に黒い絵の具をかけてしまった』等のことを感じる」と、第8番の日のアフタートークで語っていた。それだけに今回は、作品の真髄を体感する貴重な機会となるに違いない。 ほかも生では滅多に聴けない曲が並ぶ。まずストラヴィンスキーのバレエ音楽「妖精の口づけ」。チャイコフスキーの楽曲が引用された、不思議なロマン漂うこの新古典主義作品は、ラザレフが演奏を熱望したという。さらにはチャイコフスキーの序曲「ロメオとジュリエット」の旋律に歌詞をつけたタネーエフの二重唱曲(ソプラノ:黒澤麻美/テノール:大槻孝志)もある。全編に捻りが利いた当公演に足を運び、存分に刺激を味わおう。アレクサンドル・ラザレフ ©山口 敦

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です