eぶらあぼ 2015.9月号
53/207

50ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団マーラーでさらなる深化を目指す文:江藤光紀神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第312回・第313回定期演奏会名匠が紡ぐ王道の歴史、俊英が描く動乱の時代文:柴田克彦第633回 定期演奏会 9/12(土)18:00 サントリーホール第52回 川崎定期演奏会 9/13(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp第312回 定期演奏会 9/20(日)14:00 横浜みなとみらいホール第313回 定期演奏会 10/10(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 http://www.kanaphil.or.jp ノット&東響の旅路も2シーズン目に入り、両者の歩みは着実に密度を上げている。これまでの成果として、考え抜かれたプログラムと楽曲解釈、仕上げの緻密さと高い完成度、などが挙げられよう。もっともこれらの美質は、就任時点でもある程度予想ができた。むしろ最近の演奏で気になるのは、ノットが予定調和的な仕上げの良さを少々犠牲にしても、時に自ら進んで変化球を投げこんでいる点だ。東響のアンサンブル力は確実にレベル・アップしてきたが、日本人はよくも悪くも巧くまとまってしまいがち。ノットはそのまとまりをあえて少し揺さぶることで、オーケストラからより大きな自発性を引き出し、私たちの予想を超えていこうとしているのではないか。 そんなわけで両者のコラボ、ますます熱くなりそうなのだが、9月の定期は曲目もマーラーの交響曲第3番ということで目が離せない。彼の巨大なシンフォニーの中でもひときわ大規模な作 今秋幕開けの神奈川フィル定期は話題性充分だ。まず9月は、児玉宏が同楽団の定期に初登場を果たす。彼は、ドイツの歌劇場で25年以上のキャリアを積んだオペラ指揮者にして、2008年から音楽監督を務める大阪交響楽団(旧・大阪シンフォニカー響)の名を高めた名匠。大阪響でのレアなプログラムでもおなじみだが、今回はモーツァルトの交響曲第39番とブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」という王道プログラムで挑む。これらはドイツ仕込みの得意演目であり、なかでもブルックナーは大阪響で11回の交響曲シリーズを行い、平成21年度文化庁芸術祭「芸術祭大賞」も受賞(第139回定期 ブルックナー:交響曲第6番)した十八番。妥協を許さない音楽作りで知られる彼が、神奈川フィルに新たな輝きを与えることへの期待も大きい。 10月は、若き常任指揮者として成果を重ねる川瀬賢太郎が、凝った演目を聴かせる。前半は、ショスタコーヴィチの交響詩「十月革命」とヴァイオリン協品で、動植物の世界から人間を経て神の愛へと高まる、天上界への階梯を描いたような作品だ。世界の森羅万象が音で表現されている、と言ってもいい。 ノットはこの曲をすでにバンベルク響と録音しており、高い評価を得ている。途方もない集中力が必要となるだけに、このタイミングでの得意曲の奏曲第1番。前者は社会主義リアリズム路線の明快な作品で、川瀬の生気溢れる表現が聴きものとなる。協奏曲のソロは三浦文彰。09年ハノーファー国際コンクールの史上最年少優勝以来、順調に成長を遂げる彼が、シリアスな難曲でどう魅せるか? すこぶる楽し選曲は、東響との協業をもう一段深化させようという意欲の表れに違いない。独唱の藤村実穂子は言わずと知れた世界屈指のメゾ歌手で、バンベルク響との録音にも大きく貢献している。強力な援軍に加え、東響コーラス、東京少年少女合唱隊も参加。文字通りの総力戦が楽しめそうだ。みだ。後半はシベリウスの交響曲第5番。後期の祝祭的な名作を川瀬がいかに描くのか?も当然大注目だし、ロシアの十月革命を受けてフィンランドが独立した時期の作ゆえに、前後半で対照される支配国と被支配国の空気感も興味深い。藤村実穂子三浦文彰©Yuji Horiジョナサン・ノット ©K.Miura児玉 宏川瀬賢太郎©Yoshinori Kurosawa

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です