eぶらあぼ 2015.9月号
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49第12回 川畠成道 ソナタシリーズ全曲無伴奏~古典から現代まで~9/13(日)13:30 紀尾井ホール問 テンポプリモ03-5810-7772CD『無伴奏の世界/川畠成道』ビクター VICC-60932¥3000+税8/19(水)発売川畠成道(ヴァイオリン)“14番目の無伴奏作品”の傑作が誕生取材・文:宮本 明Interview この数年、無伴奏ヴァイオリン曲のみによるリサイタルを毎年開催するなど“無伴奏”に積極的に取り組んでいる川畠成道。自身2枚目の無伴奏アルバムをリリースする。 「4年後のCDデビュー20周年にはバッハとイザイの無伴奏ソナタ全曲演奏に取り組みたいと考えています。無伴奏作品にはすべてを自分の責任で作っていく魅力があります」 ニュー・アルバムの収録曲中、おそらく最も注目を集めるのが、川畠が新垣隆に委嘱した無伴奏ヴァイオリン・ソナタ「創造」だろう。昨年9月に初演した。 「新垣さんとは1歳違い。桐朋の学生時代から面識がありました。自分が卒業後イギリスに留学してからは交流が途絶えていたのですが、昨年彼があのようなことになったあとに再会して、無伴奏ソナタを依頼したのです。一般的に演奏される無伴奏ヴァイオリンの名作は、バッハの6曲とイザイの6曲、それにバルトークの1曲を加えた13曲だけです。その“14曲目”になるような作品を、ぜひ新垣さんに書いてほしかったのです。彼がまだ事件の渦中にあった4月頃から、何度も打ち合わせを重ねました。時にはうちに泊まってもらって、新曲のことだけでなく、これからどうするの? とか、十代からの友人だからこそできる話も」 「創造」は、新垣本来の前衛的なスタイルではなく、シリアスな表現ながら調性や旋律を感じさせる書法で書かれている。 「今後多くのヴァイオリニストに『弾きたい』と思ってもらうためには、あまり前衛的すぎず、調性感も残しつつ、その中で新垣さんらしい表現をしてほしいとお願いしました。冒頭のきわめて印象的な旋律がいろいろな形に変化しながら全体を貫いて、さまざまな表情を見せていきます。どこかに迷い込んだり、過去を懐かしんだり。そして第4楽章で兆しが現れ、フィナーレで力強く再起を果たす。これは僕の勝手なイメージですが、もしかすると新垣さんがそういう人生を歩んで来られたのかな、と。非常に共感するところが多い作品です」 この作品を“14番目の無伴奏作品”として定着させなければならない使命がある、と語る。実際、50年後、100年後の成果を予感させる、消えることのない炎を感じさせる作品だと思う。これを聴けば、バラエティ番組で見るのとは別の「作曲家・新垣隆」に出会えるはずだ。今秋には、「新垣隆展」(10/15・紀尾井ホール)で自作自演の新作ピアノ協奏曲「新生」とともに、川畠による「創造」もあらためて披露される。10/5(月)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.comピーター・ゼルキン(ピアノ)時空を超えた音楽との対話文:江藤光紀 父にルドルフ・ゼルキン、祖父にアドルフ・ブッシュを持つ文字通りのサラブレッド、ピーター・ゼルキン。現代音楽の最前線を走る異端児という一昔前のイメージは、伝統や血統の重さを振りきる身振りが生んだもののようにも見えた。星霜を経て、ピーターはいま、異なる時代の異なる様式を自在に飛び越え、自由に呼吸し、音楽との対話を謳歌している。 今回のリサイタルも聴衆を壮大な時間旅行へと誘ってくれる。まずはピーターが緊密にコラボを続ける作曲家チャールズ・ウォリネンが、ジョスカンをテーマにして書いた作品で幕を開ける。中世と現代がいきなり交錯するというわけだ。スウェーリンク、ブル、ダウランド、バードといったルネサンス期の大作曲家たちに続くのは、ベートーヴェン「ソナタ第30番」、モーツァルト「ソナタ第8番」、バッハ「イタリア協奏曲」といった“大山脈”。しかしよく見ると、その合間に20世紀の作曲家マックス・レーガーの小品「私の日記より」(抜粋)が置かれているではないか。意表を突く選曲の効果のほど、会場で確かめよう。

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