eぶらあぼ 2015.9月号
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246 内外で驚異的な活動を展開している勅使川原三郎。この半年で既に10本以上の作品を発表、その都度斬新な視点や発想に満ちた舞台で観客を「勅使川原ワールド」に引き込んでいる。今年は、1985年に自身のカンパニーKARASを立ち上げてちょうど30周年。さらに荻窪のスタジオとホールを備えたカラス・アパラタスを新たな活動拠点に構えて2周年。二つの記念すべき節目が重なったのを機に、現在の心境や自身の活動について語ってもらった。 まずこの30年間を振り返っては「実際、力を込めて活動してきて、なかなかいい時間だった。特に記念公演などはしないが、アパラタスを拠点に活動していくことが重要」と感慨深げに語る。 カンパニーを結成したのは、一緒に活動していた宮田佳(現在は海外在住)と今までにない新しいダンスを目指したことから。最初の公演は、日本ではなく、86年パリのエスパス・キロンほかで行われた。「僕が追求しはじめたのは、それまでのダンスの概念にない新たな身体の動きの発見だった」という。 同年、振付家の登竜門として知られるフランスのバニョレ国際舞踊振付コンクールで準優勝と特別賞。これが世界へ羽ばたくきっかけとなった。日本での活動は87年からで、池袋のスタジオ200で『晴天の腕』、スパイラルホールで『月は水銀』を上演した。 「最初からヨーロッパでの活動が主で、公演数は圧倒的に海外の方が多い。バニョレで入賞してから、各地の劇場やフェスティバルから声がかかり、プロデュース、つまり作品を買ってもらう本来のプロフェッショナルな方式でやってきた。だから一作一作が勝負」と言葉にも力がこもる。30年間に創作した作品は膨大な数に上る。こうした活動を積み重ねてきた上で、アパラタスを拠点に持ったのはある種の危機感から。 「日本では、活動していく上で開放感がない。一部の劇場は消極的で冒険せず、観客側にも強烈に求める気持ちが足りない。これはもう自分の劇場を持とうと決め、佐東利穂子が見つけたのがこの場所。経済的に限られた条件のもと、ダンスで何ができるのかを探求していこうと考えた。普通の劇場ではできないサイクルで創作を続けていきたい。大事なのは自由と、時間をかけてやることだ」 アパラタスは、JR荻窪駅西口を出たすずらん通りにある。最近では地元の観客も増えてきたという。 「いつも5〜6作品を同時並行に準備し創作しているが、今突然、創作意欲が沸いてきたのではない。まあ、もともと空想する子供だった。ダンスは軽やかで、作品としてはライヴだ。喫茶店に行くようにふらっと来て、予想外のことも起こるのは面白い」 8月は、日々更新される<アップデイトダンス>のシリーズを2本。それが終わると9月はKAATの中スタジオで新作『ミズトイノリ‐water angel』を初演。「水は祈りの象徴。天使とは、助けてくれるものではなく、むしろそっと寄り添ってくれるもの。言葉にできないひそやかなものをダンスで表現したい」と創作の意図を語る。 勅使川原作品には、今や一心同体のミューズ、佐東の存在が不可欠だ。出会いはワークショップの時で、「繊細で壊れやすそうでいて、内面が強い類いまれなダンサー」と評する。今春パリのシャンゼリゼ劇場ほかで上演された藤倉大作曲のオペラ《ソラリス》は、ハリー役の佐東のために創られたような作品で、「彼女のダンスは作品を超えてしまうほどだった」と賛辞を惜しまない。 秋は海外での活動が主になる。11月はシャンゼリゼ劇場でKARASのグループ作品『鏡と音楽』公演、2016年3〜4月にはスウェーデンのエーテボリ・バレエ団から委嘱された新作が<勅使川原三郎の夕べ>で初演される。9月は愛知県芸術劇場でオペラ《魔笛》を演出。《ソラリス》同様ダンスが重要。「そこに僕が演出する意味があります」と語る。充実した活動を続ける“世界の勅使川原”からますます目が離せない。見知らぬひそやかなものをダンスで表現したい取材・文:渡辺真弓 写真:藤本史昭アップデイトダンスシリーズ No.26『プラテーロと私 3』8/17(月)~8/26(水) カラス・アパラタス B2ホール問 カラス・アパラタス03-6276-9136『ミズトイノリ ‐ water angel』9/5(土)~9/10(木) KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ問 KARAS 03-3682-7441 http://www.st-karas.comInformation

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