eぶらあぼ 2015.9月号
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168CDSACDBDCDマーラー:交響曲第10番/インバル&都響ローテーション/低音デュオ(松平敬&橋本晋哉)ウィーン・フィル・サマーナイト・コンサート 2015/メータ&ブッフビンダーベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲/和波孝マーラー:交響曲第10番(デリック・クック補筆版)エリアフ・インバル(指揮)東京都交響楽団松平頼暁:ローテーションⅠ/近藤譲:花橘/田中吉史:科学論文の形式によるデュオ/山根明季子:水玉コレクションNo.12/マショー:ご婦人よ、見つめないで下さい/ボローニャ:彼女の恋人が 他低音デュオ[松平敬(声/バリトン)、 橋本晋哉(テューバ/セルパン)]グリーグ:ピアノ協奏曲、「ペール・ギュント」第1組曲/ニールセン:歌劇《仮面舞踏会》序曲/シンディング:春のささやき/シベリウス:フィンランディア/ロンビー:コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ 他ズービン・メータ(指揮)ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲/モーツァルト:ヴァイオリンと管弦楽のためのアダージョK.261、ヴァイオリンと管弦楽のためのロンドK.373和波孝(ヴァイオリン)高関健(指揮)いずみごうフェスティヴァルオーケストラ収録:2014.7/20,21、サントリーホール(ライヴ)(ワンポイント・レコーディング・ヴァージョン)オクタヴィア・レコードOVXL-00089 ¥3800+税コジマ録音ALCD-106 ¥2800+税収録:2015.5/14、シェーンブルン宮殿(ライヴ)ソニーミュージックSIXC-11 ¥5700+税収録:2015.4/5、紀尾井ホール(ライヴ)ナミ・レコードWWCC-7790 ¥2500+税日本のマーラー演奏の先端を走ってきた都響が、インバルと実現した2度目の交響曲ツィクルス。その偉業の掉尾を飾るのが昨夏の第10番。楽団のマエストロへの全幅の信頼、その指示を逃すまいとするぴりっとした緊張感が客席にも伝わり、襟を正させられたが、これは当日の雰囲気をありありと再現した見事な録音だ。インバルはもったいぶったことはせずに、スコアを明晰に立ち上げることに全霊を捧げ、サントリーホールの長めの残響も気にならないほど、マーラー辞世の精神を即物的かつ立体的に鳴らしていた。長年の経験を通じて培われたマエストロの職人の技に、録音スタッフも肉薄している。(江藤光紀)ユニークなのは、バリトンとテューバという取り合わせだけではない。現代の作曲家が書いた多彩な新作を聴かせたかと思えば、橋本が特異な形状の古楽器セルパンへ持ち替え、中世・ルネサンスの作品も披露し、時空を軽々と飛び越えてみせる2人。松平頼暁や近藤譲といった大御所から、山根明季子ら若手までが取り組んだ新作群は、色合いが全く異なり、どれも鮮烈だ。そして、ここへ挿入される古い西洋音楽も、不思議に違和感がない。安定感ある松平と、特殊奏法も自在にこなす橋本。10年近いデュオ活動で醸成された絶妙の間合いが、古今東西の響きを巧みに結び付けてゆく。(寺西 肇)ウィーン・フィルの初夏の風物詩、シェーンブルン宮殿における野外公演が今年も映像化された。プログラムは、生誕150周年のシベリウスやニールセンなど北欧の作曲家が中心。巨匠メータの端正で安定感のあるタクトが随所で光る。グリーグのピアノ協奏曲では、名匠・ブッフビンダーと共演。持ち前の硬質で洗練されたタッチで、この作品の澄んだ抒情美をみごとに描出している。そして、シベリウス「フィンランディア」は、演奏終盤で花火を用いる演出も大きな見どころ。生憎の空模様を吹き飛ばすかのように華麗で緻密なカメラワークが素晴らしい。(渡辺謙太郎)和波孝という音楽家が尊敬を集めるのは、視覚障害を乗り越えたという理由からだけではない。決して、ひと所に安住することなく、常に研鑽を重ね、変化を厭わない姿勢と、そこから紡ぎ上げる音色が人々の心を打つからだ。70歳記念コンサートをライヴ収録した当盤からも、そのことを如実に感じ取ることができる。ベートーヴェンの協奏曲の一音一音に心を込め、意味を持たせてゆく和波。「偉大な協奏曲を、今の技と心でどこまで表現できるか…」。長い演奏活動を重ねてなお、作品への敬意と、良い意味での畏れを忘れない。高関と特別編成のオーケストラも、いい仕事をしている。(笹田和人)

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