eぶらあぼ 2015.8月号
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18トゥガン・ソヒエフTugan Sokhiev/指揮DSOは私と一緒に“冒険”ができるオーケストラです取材・文:片桐卓也 写真:藤本史昭 いまヨーロッパではロシア系若手指揮者の旋風が吹いている。各地で話題となっている指揮者のほとんどがロシア系と言ってもよいくらいだ。その中でも注目のひとりがトゥガン・ソヒエフ。1977年に北オセチアで生まれ、サンクトペテルブルク音楽院で伝説の名伯楽イリヤ・ムーシン、ユーリ・テミルカーノフに指揮を学んだ。そして99年の第3回プロコフィエフ国際コンクール指揮者部門で最高位となり、マリインスキー劇場、ウェールズ・ナショナル・オペラなどでデビューを飾った。2008年には、まだ30代はじめでフランスの名門トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督に就任。さらに、12年シーズンより歴史と伝統を誇るベルリン・ドイツ交響楽団(DSO)の音楽監督を務めている。そのDSOとこの秋、待望の来日公演を行なう。 「DSOはドイツ音楽の伝統を受け継ぐオーケストラです。ただ、楽員の年齢は若く、彼らはみんなオープンで、リスクを負うことも恐れない、そんな柔軟性を持ったオーケストラでもあります。だから私と一緒に“冒険”が出来る。またベルリンにはクラシック音楽の聴衆も多く、彼らもまた若くオープンで、ベルリン・フィルでは決して演奏できないようなプログラミングも受け入れてくれます」 静かだが、低い声で雄弁にソヒエフは流れるように話題を展開していく。 「ベルリンのオーケストラはよくブラームスを取り上げますが、私たちのオーケストラでは2シーズンの中で1〜2回ほど。聴衆も私たちには新しいレパートリーを期待しています。私たちが録音したプロコフィエフのオラトリオ『イワン雷帝』などがその良い例です。ドイツではやはりドイツ音楽の演奏機会が多く、フランス、ロシアの作品などは少ない。ドイツ音楽以外の音楽を聴きたいという聴衆は、私たちの所にやって来るのです」 DSOは1946年の創設。初代の指揮者はフリッチャイが務め、以後マゼール、シャイー、アシュケナージ、ナガノ、メッツマッハーがこのオーケストラをリードしてきた。そしていま、ソヒエフが新たな時代を作り出している。 今回の日本公演では、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」・第7番およびピアノ協奏曲第3番、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、ブラームスの交響曲第1番といったドイツ本流の作品を携えてやって来る。 「ドイツのオーケストラだからドイツ音楽を、という訳ではありません。これらの傑作は、すべて革新的な要素を持っています。ベートーヴェンの『英雄』が初演された時、聴衆はその長さと音楽の革新的な要素に驚きました。また、ブラームスの交響曲第1番は、ベートーヴェンの9曲の傑作の後に、どんな交響曲が書けるだろうかとブラームスが悩み抜いた末に書き上げた作品です。そこにはベートーヴェンの遺産を引き継ぎながらも、まったく独自の交響曲を書こうというブラームスの意欲が満ちています。その作品の冒頭、ティンパニによってリズムが刻まれるなか、弦楽器などが主題を出すその部分を聴くだけでも、ブラームスの意欲が分かると思います」 ソヒエフのこれまでの来日では、トゥールーズ・キャピトル管弦楽団と作り出した華麗なオーケストラの色彩パノラマが話題となったが、この秋のDSOとのツアーではドイツの交響曲を中心に据える。そこでのソヒエフの指揮ぶりには、きっと新しい世代の息吹が感じられるだろう。 「また、この秋のツアーでは、私の大好きなピアニストであるユリアンナ・アヴデーエワとベートーヴェンの傑作、ピアノ協奏曲第3番を共演できることが楽しみです。もちろん才能あるヴァイオリニストである神尾真由子とのメンデルスゾーンでの共演も楽しみにしています」 オーケストラの激戦地ベルリンで存在感を見せているソヒエフとベルリン・ドイツ交響楽団。前進を続ける彼らの“今”をキャッチしよう。

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