eぶらあぼ 2015.8月号
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16フルートの魅力を満載した豪華なアニヴァーサリー取材・文:柴田克彦 写真:中村風詩人 9月に『アニヴァーサリー・コンサート―フルートと共に50年―』を行う、日本フルート界の第一人者・工藤重典。10歳で演奏を始めてからの半世紀を振り返り、「時が経つのは何て早い!」と話す。 「音楽鑑賞の授業でビゼーの『アルルの女』の『メヌエット』を聴いて、音色に魅了されたのが始めたきっかけです。ただその時は楽器が何か分からず、リコーダーが上手く吹けた私は、なぜかジュニア・オーケストラのオーディションを受け、会場で初めてフルートという楽器を知りました。ともかくその日にリコーダーを吹いたら、審査員だった札響の佐々木伸浩先生が、『私が引き取ってフルートを教えましょう』ということに。それが決定的瞬間でした」 札幌で8年間、師・佐々木に「基礎を叩き込まれ」、桐朋学園で2年学んだ後、やはり「10歳のときにリサイタルを聴いて『この人に習う!』と心に決めた」巨匠ランパルに師事しようと「単身フランスに飛び立った」。 「何とか調べてランパルがニースで開く講習会に行ってみたら、生徒は100人以上。でもそのときランパルが『君はパリ音楽院を受けるために来たのか?』ときいてくれたんです。私はそんなことが可能なのか! と驚き、猛練習して約100人中5人の合格者に入りました」 パリ音楽院で4年間、ランパルとマリオンに師事した彼は、一等賞を得て卒業し、リール国立管弦楽団に入団。8年後エコール・ノルマルの教授就任と同時に退団し、以来ソロと教育活動を続けている。 今回の公演は、デュオ、室内楽、協奏曲と実に多彩な内容だ。 「フルートをソロ楽器として確立させたのはランパルですが、そのレパートリーは今、演奏される機会が減っています。そこで、クラシック・ファンにお伝えすべく、代表的な楽曲を選びました」 では、豪華共演陣も含めて演目を紹介してもらおう。まずは前半から。 「ドビュッシーが晩年に書いた『フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ』は、フルート特有の音色と楽器の組み合わせが生む神秘的な響きが見事に表出された、もっと知られるべき作品。ヴィオラの川本嘉子さん、ハープの吉野直子さんとはもう何度も共演しています。ピアソラの『タンゴの歴史』は、迫力があって芸術性も高い作品。今回も共演するギターの福田進一さんと私が日本初演し、世界初録音も行いました。実は私、リール管にいた頃にピアソラと共演したこともあるんですよ。モーツァルトのフルート四重奏曲第1番は、フルートを含む室内楽曲を代表する彼の4曲の四重奏曲の中でも、もっとも有名な1曲。チェロの山崎伸子さんとは、私がNHKにデビュー時にこの曲を共演しましたし、ヴァイオリンの堀米ゆず子さんとは、私がランパル・コンクールで優勝した同じ年に、彼女がエリーザベト・コンクールで優勝され、“世界のコンクール優勝者を集めた地中海クルージング”でご一緒して以来の仲です」 後半は「ピアノが入る曲」が並ぶ。 「モンティの『チャールダーシュ』は、娘(工藤セシリア)と1曲だけ共演しようと選びました。ちなみに娘と共演した新譜『ウィーンの薫り』も発売されます。プーランクの六重奏曲は、今回共演するグループ(在京オーケストラの首席奏者など豪華な顔ぶれ)の演奏会でいつも披露している作品。プーランクは管楽器の音楽に独特の色を与えた作曲家で、中でもこの曲はぜひ聴いてみてほしい。そして最後にモーツァルトのフルート協奏曲から、編成など様々な点を考慮して、華やかな第2番を演奏します。オーケストラにはプーランクで共演するメンバーも加わってくれます」 まさに垂涎のラインナップ。工藤自身も「モンティ以外は全てオリジナル。古今の名作曲家たちがフルートのためにこれだけの名曲を書いていることに、今一度注目してもらいたい」と意気込む。 今後は「18〜20世紀に沢山作られた『フルートのための室内楽曲』を、紹介していきたい」とのこと。インタビューでは、50年の中で印象に残る出来事、影響を受けた演奏家や作曲家なども話題に上がったが、それはまたの機会に譲るとして、最後にフルートの魅力について。「フランスの作曲家たちは、木の葉の揺れや水の流れや風のささやきなど、自然との関わりを大事にしました。フルートの音色はそれらにピッタリ合いますし、そうした自然で作為のない『風のような音』が魅力だと思います」 この公演でその真髄を満喫したい。
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