eぶらあぼ 2015.8月号
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取材・文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人一杯のカクテルに巡る季節を淡々と感じる ある飲み手は父や祖父のように慕い、ある若手の飲食関係者は神と崇める。銀座の有名バーテンダーなどは、「校長先生」と形容していた。先頃オープン40周年を迎えた湯島の老舗バー「EST!」のオーナー・渡邉昭男さんの満面の笑顔を見ると、どの評も的を射ていることがよくわかる。 旧満州で生まれ、佐賀の唐津で育った渡邉さんは、高校卒業後に薬剤師を目指して上京。しかし、当時全盛の「トリスバー」でのアルバイトをきっかけにこの道へ。銀座「静」、湯島「琥珀」といった名店を経て、1973年にこの地で「EST!」を開業した。 自分ではほとんど酒を口にせず、バーテンダー協会にも属さない彼は、「お酒もサービスも、すべてお客様に教えていただきました」と、これまでの歩みを振り返る。「昔は、酒も、氷も、フレッシュ・フルーツも手に入りにくく、カクテルのレシピもわからないことが多いのですべて我流。お客様の反応を拝見しながら調整してきました。バーテンダーに最も大切なのは、お客様の舌と心を探る“接客”。同じ人間でも気候や体調で嗜好は毎日のように変わるので、その探求には終わりはありません。難しいことですが、だからこそ面白くもある」 「EST!」のカウンター9席&テーブル4席は連日満席。入口近くには懐かしい黒電話が置かれ、独特の呼出し音と、スタッフの「はい、EST!でございます」という明るい声がよく映える。そして、茶褐色の質実剛健な内装と、白いバーコートに身を包んだ渡邉さんたちの洗練された接客。そこにはいつも、温かくも凛とした空気がある。 バー入門にふさわしいカクテルをと尋ねたところ、返ってきたのは次の2杯。ジンに甘味と酸味を加えてシェイクし、ソーダで割った「ジン・フィズ」と、ブランデー・ベースの「サイドカー」。どちらも作り手の裁量が一口でわかるスタンダードを、あえて選んでくるのが流石だ。 そして、渡邉さんのもう一つの特長が、“旬”を大切にすること。例えば、夏には自宅で栽培したミントをたっぷり使用した「モヒート」。晩秋から登場するザクロとカルヴァドスの「ジャックローズ」。オリジナルのブレンド珈琲で作る冬の定番「アイリッシュ・コーヒー」など。いずれも提供期間を食材の旬の時期に限っており、手本にする同業者も多い。 雪が降っては消え、花が咲いては散る。巡り巡る季節を、毎年淡々と感じさせてくれる。それが、「EST!」のカクテルだ。Bar EST!(ばー えすと) 東京都文京区湯島3-45-3 月~土・祝日 18:00~24:00 日曜、盆、年末年始 なし 10% 03-3831-0403東京文化会館、上野学園 石橋メモリアルホールInformationEst!Vol.1湯島コンサートの余韻を美味しいお酒とともに味わえるホール近くの素敵なバーをご紹介しますオーナー・バーテンダーの渡邉昭男さん163
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